「ぎょぶる」?
変な名前である。《「魚部」という場でつながるヒト・モノ・コト発見マガジン》とあるから、魚に関する雑誌のようだ。
記事をみると、魚に限らず深海生物や水生昆虫、カエルや海草の話も出てきて、つまり水にかかわる生物はなんでも守備範囲らしい。それらの生物を探しに行ったり、採集したり、飼育したり、保護したり、研究したりといった記事が、実に楽しげに誌面を埋め尽くしている。
たとえば4月発行の最新号8号の特集は「魚部が感動する七人の侍 すごい人列伝」と題して、高校時代に自宅ガレージに100本もの水槽を持っていた写真家、湿地帯中毒の研究者、ウジは触れないのにウジに似たガムシの幼虫を愛する学芸員など、ひとくせもふたくせもある人たちを紹介している。
過去の特集を調べてみると「種子島に魚部伝来」とか「身の回りの自然に私たちはどうかかわっていくか」などなど。強いて分類するなら、自然保護活動の広報誌のような位置づけだろうか。だが、そんな杓子(しゃくし)定規な説明では伝わりきらない自由さがこの雑誌にはある。専門家も市井の人々もいっしょになって、好き放題やってる感。
もともと高校の部活動から生まれたというのも面白い。発行は「北九州・魚部(ぎょぶ)」。これは福岡県立北九州高校の部活動「魚部」にかかわった人々が立ち上げたNPO法人なのだそう。魚部の「部」は、クラブ活動の「部」だったのだ。今ではとうに高校の枠を超え、博物館やら大学やらそこらじゅうを巻き込んで、その活動は「生物多様性アクション大賞2017 農林水産大臣賞」を受賞するほどの深化と広がりを見せているらしい。
このごろは、こういう地方発信型の、しかも行政や大手出版社からではない雑誌が楽しくなってきた。発行部数も発行頻度も少ないけれど、今はネットがあるから全国どこでも購入できるし、技術が進んでデザイン性の高い雑誌も増えている。
「ぎょぶる」はそんななかでも格段に面白い。私が海洋生物好きなせいもあるだろうが、登場する人や書き手がみな自然体で、面白がっている姿がそのまま伝わってくる。かっこつけてないし、ときどきバカだし、それでいてちゃんと問題提起もある。雑誌づくりの原点を見るようだ。唯一残念なのは、誌面で定期購読を募集していながら、次はいつ出るのかさっぱりわからないことだが、その無頓着さにさえ妙に親近感が湧くのだった。=朝日新聞2019年8月7日掲載