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「転生する文明」書評 分断の時代に「互敬」と「互恵」

評者: 長谷川逸子 / 朝⽇新聞掲載:2019年08月10日
転生する文明 著者:服部 英二 出版社:藤原書店 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784865782257
発売⽇: 2019/05/24
サイズ: 20cm/326p

転生する文明 [著]服部英二

 服部氏は長らくパリに住みユネスコに貢献してこられた。京都大学人文科学研究所の「自分の足で歩き、自分の頭で考えよ」という格言をもって、100以上の国や地域を訪ね、それぞれの現場で得られた知見に基づいた壮大な文明史観が凝縮した一冊である。氏はそれを自ら「文明の〈生体〉史観」と呼ぶ。文明は他の文明やそこの風土と出会って子を孕み、また旅立っていくのだという。
 マヤ文明のジャガーと蛇(ククルカン)、東南アジア諸文明の獅子と竜や蛇(ナーガ)の類似した組み合わせ。雲南のハニ族と日本の言葉、家屋、食物や祭事の共通点。雲南―インドネシア―日本の東アジアの稲作文化を持つ三日月地帯に見られる聖樹信仰などを読み進めていくと、文明が転生していく姿を幻視した気持ちになってくる。
 特に印象深いのは、氏がボロブドゥールで聖山ムラピ山から昇る朝日を見て建設の聖地に選ばれた理由を悟る場面と、海のシルクロードにおける大乗仏教の転生の旅である。ガンダーラで大乗仏教が生まれ世界宗教となり、日本にも伝播する。ガンダーラを出発しタクラマカン砂漠を超えて敦煌、そして長安へと至る北回り陸路は有名である。しかし、東南アジアで大輪の花を咲かせた「海のシルクロード」を転生していく大乗仏教があった。ガンジス川を下ってセイロンに一大拠点を育み、アメーバ状にかたちを変えるスリヴィジャヤ王国とともにボロブドゥール、そしてアンコールへ。法顕ら3人の求道僧の旅路をまとめた地図は、ほぼそのまま大乗仏教の旅路である。
 「分断の時代」と言われる今、氏がこの書を世に問う姿勢に深く共感する。それぞれの地で独自に繁栄したかに見える文明は地下水脈で通底しており、文明を豊かに育てるものは多様性に満ちた「互敬」であり「互恵」に至るという氏の思想は、地球上に生を営む多くの人々の願いとともにある。
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 はっとり・えいじ 1934年生まれ。94年までユネスコ本部勤務。著書に『文明の交差路で考える』など。