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「わが人生に悔いなし」書評 人気作詞家・なかにし礼の壮烈な人生

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2019年08月10日
わが人生に悔いなし 時代の証言者として 著者:なかにし礼 出版社:河出書房新社 ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784309028057
発売⽇: 2019/06/21
サイズ: 19cm/201p

「北酒場」(細川たかし)をはじめ数々の名曲を作詞し、小説「長崎ぶらぶら節」で直木賞に輝いたなかにし礼。言葉を自在に紡ぎ、人々に感動を与えてきた彼が、「これまで三度、死の淵…

わが人生に悔いなし 時代の証言者として [著]なかにし礼

 著者はこれまで3回、死の淵をさまよった。旧満州からの引き揚げ、心臓発作、そしてがん闘病、そのつど生の側にいるのは何故か。80歳に達した作家、作詞家のその人生を淡々と語り続ける中に、実は答えが隠されている。自らの人生は自らで切り開く。そのエネルギーを生み出す力を持って生きてきたことがわかる。
 壮烈な人生は小説でも語られている。引き揚げ時に体験した戦争の実像、日本に戻っての貧しさといじめ、東京での高校生活とクラシックの名曲喫茶、シャンソン喫茶でのアルバイトなど、運命に引きずられるように作詞や文学の世界にはいっていく。授業料が払えず、立教大学英米文学科に三度も試験を受けて入り直すエピソードは、生きる姿の真摯さを示している。
 著者は人間の原石を見ることにより生を積み重ねてきた。本書に登場する人たちの多くは著者によって磨かれ、著者もまた磨かれたのである。結びの問いかけはそのことを示唆する。