履正社が甲子園で初優勝し、今夏も高校野球は盛り上がった。本書は、阪神などプロ11年で通算113勝した江本孟紀さんによる、球児と関係者、観戦者に贈る提言書だ。
注目すべきは、近年議論されている「投球数制限」への考え方だ。今年の岩手大会決勝で、大船渡が、準決勝で完封した“163キロ右腕”の佐々木朗希(ろうき)投手を、それまでの投球数を考慮して登板回避させた。
江本さんは「そういった制度を安易に設けるべきではない」と説く。よく引き合いに出される米大リーグの「1試合100球」という目安を、「球団と投手の代理人による金銭交渉の産物。科学的根拠よりもカネを巡る争いから生まれたもの。それを日本の高校生に当てはめるなんて……」と語る。
「米国流」や「新しいこと」を無条件で良しとする風潮にも危機感を抱く。「連投がタブーで、投球数制限がある米国投手だって故障して手術をしている。他に原因がないか、なぜ真剣に考えないのだろうか」。江本さんは米国の高校生たちにも取材をしており、負担のかからない投球フォームや、シーズン前の入念な体づくりなどが重要だと説く。
しかし、高校生の身体は成長過程にある。昨夏準優勝した金足農業の吉田輝星(こうせい)投手(現日本ハム)も連投を重ねて球威が落ちた。そんな疑問については「日本一を争うとなると投手数を含めた総合力も左右する。ただ、今後はリーグ戦の導入や、炎天下を避けるスケジュールも検討すべきではないか」と提起した。
江本さんはかつて高知商のエースで4番だった。秋季大会で四国を制し選抜出場権を獲得したが、他の部員の暴力事件が発覚して甲子園に行けなかった。「活躍できる子には、ぜひとも甲子園のグラウンドに立ってほしい」。あの悔しさは、今も晴れない。(文・後藤洋平、写真・村上健)=朝日新聞2019年9月7日掲載