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書評家・大矢博子さんオススメ 脇役たちが見た天下動乱の歴史小説3選

大矢博子が薦める文庫この新刊!

  1. 『新選組 最後の勇士たち』 山本音也著 小学館文庫 907円
  2. 『ゆけ、おりょう』 門井慶喜著 文春文庫 821円
  3. 『孤篷(こほう)のひと』 葉室麟著 角川文庫 778円

 歴史はスターだけでは動かない。〈脇役〉たちが見た天下動乱の3冊。

 (1)明治の世に生き残った新選組最後の隊長、相馬主計(かずえ)と元隊士、安富才助。箱館で土方歳三の最期を看取(みと)った後、2人はともに島流しとなる。再起を夢見る相馬、島に骨を埋めるつもりの安富。だが彼らの運命は皮肉にも逆転する。
 ほんの少しの巡り合わせで運命が大きく隔たることがある。そのとき人は何を恨めばいいのか。哀切極まるラストが胸を打つ。
 新選組の昔話を語る元隊士の名調子にも注目。辛(つら)い物語を和ませてくれる。

 (2)脇役などと言ったら怒られるだろう。楢崎龍。坂本龍馬の妻、おりょうの物語である。大酒飲みでがらっぱち、自立心が強くエネルギッシュな女性。世話の焼ける情けない男の面倒をみるつもりで結婚したが、いつのまにか夫は時代の英雄に。その時妻は……。
 おりょうといえば寺田屋事件と新婚旅行ばかり取りざたされるが、むしろ龍馬の死後が読みどころ。型にはまらぬその魅力に、読めば気持ちが晴れる一冊。

 (3)豊臣と徳川に仕えた茶人、小堀遠州。彼の生涯には、茶を介してさまざまな人物との出会いがあった。
 千利休の最期、石田三成の没落、古田織部の意地、藤堂高虎の策略。徳川家康から後水尾天皇、伊達政宗まで傑物たちとの邂逅(かいこう)を通し、遠州は、茶の心とは何か、正しく生きるとはどういうことかを考え続ける。時代の前面に出ることはなくとも、人を見つめ、絆を結び、己の道を見いだす遠州に感動必至。=朝日新聞2019年9月7日掲載