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手触りや重さ…紙での価値を発信 アートブックの書店「POST」@東京・恵比寿南

「出版社ごとにスタイルやポリシーがあるのも欧州の特徴」と中島さん。一つの出版社を特集した棚は、2~3カ月ごとに入れ替わる=東京都恵比寿南

 飲食店が密集する恵比寿駅前から10分ほど歩いた静かな路地に、ぽつんと白い建物が現れる。海外から仕入れた写真集や画集、アートブックを扱う「POST」だ。

 店主の中島佑介さん(38)は大学卒業後にオンラインストアから出発し、2005年にこの地に店舗を構えた。「作れば売れる」時代が過ぎた出版業界の岐路に、「ページをめくる感覚や手触り、重さも含めて本という表現。そんな価値観を発信できないかと思った」という。 白を基調としたスタイリッシュな店内に、ドイツやオランダなど欧米十数カ国から仕入れた新・古書1500タイトルが並ぶ。商品は全て中島さんが現地で一冊一冊自分の目で確かめて入荷したもので、その審美眼は音楽・建築関係者など文化人も信頼を寄せる。

 手のひらサイズの黒い本が目にとまる。開くと、絵画のように配置されたアルファベットが、ページをめくるごとに踊りだす。「コンクリート・ポエトリー(具体詩)という視覚表現の第一人者とも言える詩人エメット・ウィリアムズですね」。本への知識を背景にした接客を大事にし、入荷した本は、時にはアーティスト自身に取材をして調べ上げる。「探しにきたものと別のものを買っていく人もいますし、2、3時間いる方もいますよ」

 今では、商業施設の書籍コーナーや集合住宅の図書館の選書依頼も舞い込む。紙を見直し始めたデジタル・ネイティブ世代からの支持も実感するという。(板垣麻衣子)=朝日新聞2019年9月25日掲載

 ◇売れ筋
 ●『Recollected Work』 Mevis&Van Deursen著(Artimo Foundation) オランダのデザイナーデュオが過去の作品を再構築したアートブック。
 ●『Early Color』 Saul Leiter著(Steidl) 画家を志した写真家ならではの色彩感覚が豊かな写真集。2006年刊行のロングセラー。