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「マイ・ストーリー」書評 自身と希望 次世代につないで

評者: 西崎文子 / 朝⽇新聞掲載:2019年10月05日
マイ・ストーリー 著者:ミシェル・オバマ 出版社:集英社 ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784087861174
発売⽇: 2019/08/23
サイズ: 20cm/579p 図版16p

マイ・ストーリー [著]ミシェル・オバマ

 聡明で親しみやすく、演説の迫力はバラク・オバマを凌ぐほど。国民の支持も圧倒的なのがミシェル・オバマだ。しかし、その裏には多くの葛藤があることをこの自伝は教えてくれる。
 生まれ育ちはシカゴのサウス・サイド。両大戦間期に、祖父らの世代が南部から移住した。多様な人種からなる労働者階級の居住地域だったが、1960年代に白人が郊外に脱出し、貧しい黒人が取り残されていく。体の不自由な父を持ち、勤勉で愛情深い家庭で育った彼女にとって、努力は当たり前。しかし、黒人女性をまっとうに評価しない社会にあって、名門大学に進学した後も、自分には価値がないのではないかという疑いが消えない。
 そんな彼女がバラク・オバマと出会い結婚する。政界のスターへと駆け上る彼を支えながらも、幼い娘2人との時間が犠牲となる不満は隠せない。もともと性格は正反対。政治嫌いで現実的なミシェルと、楽観的で大きな夢を追うバラク。ただ、目指す方向は同じだ。共にハーバード法科大学院を出ながら、高収入の企業法務に就かず、より公共性のある仕事を選択する。
 ホワイトハウスに居を構えても、自分らしさは忘れない。情熱を注いだのは地域の子どもたちを招いての菜園作り! 食育と健康維持は、貧しい子どもにとって大きな課題だからだ。国内外の女子教育の支援にも精を出す。子どもたちの潜在能力を引き出すには自信と希望を与えること。あなたには価値があるのだ、と。
 稀有な共感力は、貧困や差別を知る側だからこそのものだ。ロンドンの貧困地区の学校を訪問し「この少女たちはかつての私だ」と呟く彼女。人種主義者にとっては、ホワイトハウスにいる自分たちの存在自体が挑発的なのだとの苦い自覚。2017年1月、多様性に背を向ける新大統領の就任式に臨み微笑む努力すらやめたという一言からは、深い哀しみと新たな戦いへの決意が伝わってくる。
    ◇
 Michelle Obama 1964年生まれ。弁護士などを経て、2009~17年のオバマ政権でファーストレディー。