男子高生とは、いかなる生き物であるか? その微笑(ほほえ)ましくもバカっぽい世界を、深みのあるスタイリッシュなタッチで描いた連作集だ。
読み始めてすぐ、人物の絶妙な表情に、はっと目を奪われる。シンプルだが不思議な吸引力のある絵だ。派手な絵柄ではない。表情の変化も抑制的で、キャラクターによってはほとんど表情が動かないが、かえって心の揺らぎや、内面の奥行きまでが伝わってくる。能面は見る角度によってさまざまな表情が浮かび上がるというが、通ずるものがある描き方かもしれない。
そんな繊細で、含みの豊かな表情を見ていると、ボーイズラブ作品か、シリアスな奥行きあるドラマ作品のように思えるが、そんな予想はあっという間に蹴散らされ、この著者独特なギャグの世界が出現する。細やかな表現で描かれた、バカっぽくも浅はかな男子高生の日常。このギャップの生む妙な笑いはなかなかやみつきになる。これだけの表現力を持ちながら、あくまで高校男子の考えそうな世界にとどまって描く。その徹底した姿勢は、もはやストイックな迫力さえ感じさせる。絶妙なバランス感覚が光る、描けそうでなかなか描けないタイプの作品だ。=朝日新聞2019年10月5日掲載