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米澤穂信さん「Iの悲劇」インタビュー 限界集落で始まったIターン支援プロジェクト、その行く末は……

地方が抱える問題に絡むミステリー

 過疎化が進み、無人になった限界集落で始まったIターン支援プロジェクト。果たして行く末は……。ミステリー作家、米澤穂信さんの新刊『Iの悲劇』(文芸春秋)は、ユーモアとペーソスあふれる筆致で地方の抱える課題を描いた。

 Iターンとは、都市から地方に移住することをいう。プロジェクトは市長直属チーム、「甦(よみがえ)り課」の市職員3人に委ねられる。一癖も二癖もある新住民たちの定住に心を砕くものの、すぐになじめるはずもない。そこに生じたほころびに謎が絡む。

 「個人が暮らすことと、共同体を営むことの間には、どうしてもギャップが生じる」と米澤さん。たとえば、災害が起きやすい地域に住むと、それだけ社会的なコストがかかるという議論もある。「もし共同体が個人に優越するなら、住むなと言えるはず。でも、そうじゃないだろう、と。その緊張関係がミステリーの材になる」。救急車の搬送に何十分かかるのか。畑地の所有者は明確なのか。地方ならではのディテールが、物語に生きている。

 日常の謎を解決していく主人公たちだが、「小説の中心にある大きな謎には手を出せない」と米澤さん。それは日々の暮らしよりも大きな、社会構造の謎だから。「集落が無人になってしまうのであれば、そこには根本的な理由がある。みんな問題があることはわかっているけれども、周辺をつぶしていくことしかできない。それもまた、暮らすということかなと思う」(興野優平)=朝日新聞2019年10月16日掲載