データで示す保育園通いのメリット
山口慎太郎・東京大学准教授の『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)は、家族や育児を巡る俗説やモヤモヤを、海外のデータや自身の研究成果も紹介しつつ、経済学的に考察する。なぜ、待機児童の解消を急いだほうがいいのか。男性の育休取得を増やすにはどうしたらいいのか。山口さんに聞いた。
山口さんによると、欧米では、保育園・幼稚園での幼児教育を「人材投資」ととらえ、その効果について研究が進んでいるという。一方、日本の保育政策の議論は「親の働きやすさ」が中心で、当事者である子どもへの影響は、あまり重視されてこなかった。
山口さんらは、保育園の持つ幼児教育施設としての機能に着目し、厚生労働省が実施した大規模調査のデータを分析。保育園通いが、子どもの言語発達にプラスの影響をもたらし、とりわけ特定の家庭環境にある子の多動性や攻撃性を減少させることを明らかにした。さらに、子どもだけでなく、母親のしつけの質やストレスまで改善していたことも分かった。
日本では、10月から幼児教育・保育の無償化が実施された。ただ急ぐべきは「待機児童の解消」だという。「現在進められている無償化は、保育所を増やす政策を十分に伴っていません。そうすると、保育所を利用できる家庭とそうでない家庭の間の不公平感を一層高めることになりかねません」
日本の男性の育休制度は、期間や給付金でみた場合、世界的にも「先進国」といえる。だが、その制度の充実ぶりとはうらはらに、取得率は6%(2018年度)にとどまり、20~80%の欧米先進国とは大きな開きがある。「周囲の視線」や「キャリアへの不安」が取得の大きな壁だ。
取得率を上げるために、ノルウェーの事例をヒントとして挙げる。同国は、1993年の育休改革で、3%程度だった取得率を一気に35%まで伸ばし、そこから10年以上かけて約70%まで引き上げた。当初は給付金の充実など政策誘導の効果が大きかったが、その後は、育休の「連鎖」が広がったことが要因だったという。同国の経済学者の分析によると、同僚や兄弟の中に率先して取得した人がいた場合は、取得率が11~15%上昇。上司が取得した場合は、その2・5倍の影響があったという。
山口さんは、日本でも、取得が職場で不利にならないことを保証することが欠かせない、と説く。「例えば、企業は、取得者がその後どのように活躍・昇進したのか、社内で情報共有したらどうでしょうか。上司や同僚の姿を見て、キャリアへの安心感が生まれれば、日本でも『雪だるま式』に取得が増えていくでしょう」(立松真文)=朝日新聞2019年10月16日掲載