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得田之久さんの絵本「むしたちのおんがくかい」 野生児だった少年時代から生まれたユーモラスな虫の物語

文:日下淳子 写真:木村雅章

――科学絵本をはじめ、数々の昆虫絵本を生み出してきた得田之久さん。『むしたちのおんがくかい』(童心社)をはじめとした「むしたち」シリーズは、さまざまな虫たちが、音楽会を開いたり、運動会を催したり、遠足に行ったりする様子が、ユーモラスに描かれている。物語が生まれる過程には、得田さんの子どもの頃の自然体験が大きく影響しているという。

『むしたちのおんがくかい』(童心社)

 ぼくは小さい頃、本当に野生児でした。小川で魚を捕まえたり、野原でギンヤンマを捕まえたり。よく追いかけてる途中に、肥溜めに落っこたりしましたよ。あれは洗っても洗っても匂いが取れなくてね(笑)。ぼくらの頃は、外で遊ぶ子は小5、小6の子がボスに、下は幼稚園まで集団で遊んでました。小さい子や女の子は、強い子がカバーすることで一緒に遊べましたから。小さな川を堰き止めて、干上がった川から魚をどれだけ取れるかに挑戦したり、お稲荷さんの下に3畳ぐらいの穴を掘って、大人でもわからないように入り口を隠して、秘密基地を作ったりしてましたね。

 そんなふうに、子どもの頃、外で遊んでばっかりいたので、その楽しかった遊びの中からおもしろい本が出せないかなと考えました。それで、虫を思いついたんです。虫って身近にいる、最後の野生動物でしょう。その野生に惹かれて、描き始めたんですよ。

 実はね、『むしたちのおんがくかい』は、都会の騒音や工事現場が邪魔をして、虫たちが安心して音楽会のできる場所が見つからないというストーリーなんですが、自然保護をテーマにした本として書評などで取り上げられることが多くて、それがちょっと悔しいんです。ぼくは絵本の中にメッセージを入れたり、テーマが露骨に出る本って好きじゃなくてね。基本的に子どもに楽しませたいって気持ちの方が強いですからね。純粋に、虫の世界を楽しんでくれればそれでいいと思っています。

――『むしたちのおんがくかい』や『むしたちのうんどうかい』では、虫の鳴き声や特性もわかるような描写もあり、危ないところでダンゴムシが丸くなったり、ケラが地面にもぐったり。コロギスのようなあまりメジャーでない昆虫も出てくる。

 コロギスって知らないから、なんだろうって調べるでしょう? それが作戦です! こういう絵本を通して、虫に興味を持ってくれたり、虫好きが増えたらいいなと思っています。実は日本人のように虫好きな人種は、世界でも珍しいんですよ。ヨーロッパでは虫なんて毛嫌いされちゃいます。世界各国で翻訳されている『ファーブル昆虫記』も、一番売れているのは日本なんだそうです。でもいまは、日本のお父さんも虫嫌いの人がどんどん増えてきて、ちょっと残念ですね。

 ぼくはそれまで昆虫を、科学絵本として真面目に描いてたんだけど、自分の中の別の部分が我慢できなくなって、この絵本ではユーモラスにやりたいと思いました。何か違う形でやろうと思って、ぼくは文章だけにして、他の人に絵を描いてもらう方法にしたんです。

 絵を描いてくれた久住卓也さんは、虫の特徴をとらえるのが本当に上手でね。虫をお腹側から描くのって難しいんですよ。それをうまく描いてくれて、本当に感心しました。バッタが「かまきりさん。あっちへいってよ」と言うようなセリフは、今までの真面目な科学絵本では描けなかったところなんです。そういう世界観じゃなかったから。でもこの絵だったらできるかなって。そしたらそれがおもしろいって評判よくてね。もっといろんなセリフを書いてみたかったです。

『むしたちのおんがくかい』(童心社)

――絵本を読んだ読者から、ファンレターが届くこともある。もちろん、虫が大好きで絵本の隅々まで読み、かまきりが何を食べたのか当てっこをする子どももいれば、特定のページだけに興味を示す子もいる。1ページでも気に入ったところがあれば、その絵本は役割を全うしていると得田さんは言う。

 この本を読んだ方から、印象的な手紙をもらったことがありました。重い病気で入院している生後9カ月のお子さんが、この本が好きで、あるページにくると必ず笑ってくれたという内容だったんです。だから親子ともども心のよりどころになる一冊になったと聞いて、とても嬉しかったですね。

 また、別の自閉症のお子さんの親御さんからも手紙をもらいました。ぼくの絵本を読んでから、物に対して関心がわっと湧いてきて、その後小学校の理科の大会で優勝したという話を聞いた時も嬉しかったですね。本当に作家冥利につきます。いまでもその手紙は大事に取ってあるんです。探究心を掘り下げるのが得意だったり、何かに精通しているタイプの子は、すごい人になるんじゃないかって期待しています。学者なんて本当はおたくの極みですから(笑)。養老孟司さんとか福岡伸一さんとか、けっこう昆虫少年から学問を極めた人って多いんですよ。

 絵本を作るのは、いまも楽しくてしょうがないです。書きたいものがいっぱい出てきます。子ども向けの絵本って、ある年齢までは、無理に子どもに戻っていかないと、難しくてできないんです。ところが、この年になると、ひょこひょこと頭に浮かぶんですよね。ある哲学者が、赤ん坊と老人は紙一重だって言ってましたが、そうかもしれないって思います。これからも、子どもに喜ばれるような、ますます楽しいものを書いていきたいですね。