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熊野までの時間も、読書体験 「bookcafe KUJU」@和歌山県新宮市

常連客に本を薦める柴田哲弥さん(奥)。このときは、好きな版元という筑摩書房の本が多かった=和歌山県新宮市熊野川町九重

 南紀白浜空港から車で1時間半。濃緑の山々の間を北山川沿いに走り、「bookcafe KUJU(ブックカフェ・クジュウ)」にたどり着いた。知る人ぞ知る秘境の書店だ。

 建物は廃校になった旧九重(くじゅう)小学校。壁に貼られた版画、机にいす……卒業生でなくても懐かしくなる。棚には、思想や映画の書籍、リトルプレスやZINE(ジン)と呼ばれる少部数の冊子などが並ぶ。

 店主の柴田哲弥さん(35)は和歌山市出身で、東京の大学院で地域活性化を学んだ。全国の過疎地を巡り、研究より現場での実践に魅力を感じて、2011年4月に移住してきた。

 その年の9月、台風12号による紀伊半島大水害が発生。05年に廃校になっていた校舎は床上2メートルまで浸水。一度は解体が決まったが、ボランティアの学生たちと泥をかき出し壁を貼り替え、被災から約2年後にカフェ、14年5月に京都の有名書店の協力を得て書店の営業を開始。今年から古書も始めた。

 校舎内にはパン店もあり、熊野古道の観光客やキャンプ客、移住者をはじめ、地元の高齢者、若いカップルなどと客層は幅広い。編み物やレシピなど生活に密着した本が人気だが、社会学や哲学の解説書も手に取る人が多い。

 「熊野の自然の中で、コーヒーを飲みながら本を読むのは格別です。わざわざ来てもらう価値はあると思う」。お店に来るのにかかった時間も、読書体験の一部なのだ。(滝沢文那)=朝日新聞2019年10月23日掲載

 ◇売れ筋
 ●『山で暮らす 愉(たの)しみと基本の技術』大内正伸著(農文協) 木の切り方や石垣の積み方などをイラスト、写真入りで解説。移住希望者に加え、地元の人にも人気。
 ●『岡本太郎の宇宙』全5巻 山下裕二、椹木野衣(さわらぎのい)、平野暁臣編(ちくま学芸文庫) 生誕100年を記念して作られた決定的著作集。