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「戦争と資本」書評 福祉国家の母型は総力戦にあり

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2019年10月26日
戦争と資本 統合された世界資本主義とグローバルな内戦 著者:エリック・アリエズ 出版社:作品社 ジャンル:経済

ISBN: 9784861827723
発売⽇: 2019/08/10
サイズ: 20cm/423p

戦争と資本 統合された世界資本主義とグローバルな内戦 [著]エリック・アリエズ、マウリツィオ・ラッツァラート

 戦争の概念も意味も大きく変わってきた、従来の枠内での分析を超える尺度が求められる、というのが本書の主たるテーマである。「序文」で30の論点が短文にまとめられている。そこには、金融資本主義が〝グローバルな内戦〟を引き起こしているとか、〝戦争福祉(ウォーフェア)〟が〝生活福祉(ウェルフェア)〟を準備したとか、「戦争」と「平和」はいかなる相違もなくなったとかいった、刺激的な主張が並ぶ。
 2人の著者は、レーニンや毛沢東らはクラウゼビッツの『戦争論』の影響下にあるといい、フーコーやドゥルーズらの新しい世代は、「戦争が政治の延長」という論をむしろ逆転させて、「戦争と政治の概念を根本的に変えた」と見る。特にフーコーが土台になっている点で、新時代の戦争論であると同時に、過去の戦争論と平和論を解体する意図が明確だ。
 戦争国家から福祉国家への移行を論じて、福祉の母型は総力戦の戦争福祉にあり、戦争と福祉の密接な結びつきを考えて理解されるべきである、と説く。
 科学者が用いる「人新世」という語は、原子力の平和利用などの前景化を推進する前に「軍民共用の死新世」であり、「資本新世」だとも指摘する。資本主義が戦争と不可分に結びついている部分を曖昧にするために、異常気象の理由は「近代」や「西洋」「人間」に帰せられる。この1、2世紀、私たちが定義し用いていた概念は、すでに意味を失っていたり、逆転したりしているにもかかわらず、それに気が付いていないのではとの指摘に私たちは戸惑い、そして考え込む。
 資本主義の飛躍に必要だったのは「新世界を征服し捕食する諸々の戦争」だが、フーコーはその「本源的蓄積」を最も正確に描いたにせよ、グローバリゼーションについては黙殺したと、著者たちはいう。その上で、その分析は我々の役目だとも書く。本書は、それを幅広く論じたと考えると納得できる。
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 Eric Alliez 1957年生まれ。哲学者。パリ第8大教授。Maurizio Lazzarato 1955年生まれ。社会学者、哲学者。