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おもしろがると世界は広がる 絵本作家・鈴木のりたけさん講演&ワークショップ

文:加賀直樹、写真:松嶋愛

 デビュー以来、20冊以上の絵本を世に送り出してきた、鈴木のりたけさん。講演冒頭で語りかけたのは、創作に携わる上でつねに考え続けるモットーについて。それはまさに今回の講演テーマ「おもしろがると世界は広がる」という言葉だそうだ。

 「『おもしろがる』という言葉、皆さんはどう思います? ちょっと悪いイメージを抱いていない? 『おもしろがる? ふざけていないで、マジメにやりなさい!』って(笑)。でも、僕、絵本をつくるようになってから、『おもしろがる……、これって奥の深い言葉だぞ』って思うようになったんです。このたび、動物やいろんな人の顔を真似て『へんがお』をして、思いきり笑っちゃおうという絵本をつくりました。皆さんには、この本ができるまでのことに触れながら、『おもしろがるということ』について、話していこうと思います」

 新作絵本『へんがおたいそう』は、絵と文章をのりたけさん、原案をおくむらけんいちさんが担当。各ページが横長の観音開き状に綴られており、それぞれのページに特徴のある眉や口、鼻、目などが描かれている。それ以外の部分をくり抜けば、ページを跨いで重ね合わせられるようになっている。各ページをめくり、折って、重ねていけば、じつに170種類以上の「へんがお」ができる。ゴリラだったり、天使だったり。まるで百面相の仕掛け絵本だ。

 「そもそもはじめはNHK『みんなのうた』で紹介される歌『変顔体操』に絵をつけて、と言われ、企画がスタートしました。まず、体操と聞いて、『顔ってすごくおもしろいよな』と思ったんです。当時は『おでこはめえほん』(ブロンズ新社)という絵本を刊行したばかり。この本は、左下がくるっと扇形に欠けていて、頭の部分のみが絵本に描かれているんです。おでこにはめれば、着ぐるみのように笑える本。この本で遊ぶひとたちを見ていて、僕はあることに気付いた。皆さん、顔(の表情)をつくるんです。宇宙人なら宇宙人。その顔を想像しながら皆さん、はめる時に顔をつくる。そうすると本は、顔(のおもしろさ)に負けてしまう。『顔のパワーってハンパない! これは叶わない』って思ったんです」

 文金高島田、ツタンカーメン、虫……。おでこから上部の形状が精密に描かれた絵本に顔をはめたとたん、皆、なぜか「へんがお」になり切ってしまう。それが抜群におもしろかったという。

 「いくら上手に、ヘンな顔を描いたところで、ホンモノの変顔には勝てっこない。そう気付き、『へんがおたいそう』の仕事はなかなか難しいオファーだと思い悩みました。

 そんな折、出会ったのが、パントマイムのお兄さん・金子しんぺいさん、絵本のおはなしお姉さん・瀬戸口あゆみさん。パフォーマンスユニット『おむすびひろば』として活動しています。『おでこはめえほん』を使いながらのパフォーマンスに、僕は釘付けになりました。

 幼稚園で、皆の前で絵本の読み聞かせをするんです。これが、すごい! 顔の表情がとても豊か。舞台の後ろで思いっきりヘンな顔をしてパントマイムするお兄さんと、その存在になかなか気づかないお姉さん。それに対し、園児たちは『後ろ後ろ!』と大はしゃぎ。ちょうど『8時だョ!全員集合』(TBS系)の『志村、後ろ後ろ!』みたいに(笑)。

 顔には可能性があると気付いた。それがおもしろく思えるのは、生身の人間の顔だから。たとえCGを駆使して、何でも合成できたとしても、おもしろくない。じっさいに顔でやらないとダメ、ということに初めて気付いたんです」

 でも、なんでそうなのか。たとえば、顔のパーツが右のこめかみに集まってしまったような顔。あるいは、左目の奥のほうに集まってしまったような顔。生身の人間が筋肉と皮の「制限」を受けながら表情をつくるからこそ、おもしろいのではないか。そう気づいたのりたけさんが試作したのが、目や口、頬のパーツが切り取られ、並べてある顔の模型だ。

 「ただ単純に動かしても、くっ付いてないからおもしろくない。(福笑いのように)風が吹いてきたらバラバラ。顔自体のおもしろさではない。僕が各地で開催しているワークショップでは、みんなで、いろんな色を塗った画用紙をちぎり、割りピンで繋げるんです。穴を開け、割りピンを通し、裏で曲げる。『この案だ!』と思い、顔の各パーツをすべて割りピンでくっつけてみた。目、鼻、口。これをギュッギュッと動かすと、ちょっと顔の体操みたいになる。有機的でおもしろくなってきた!」

 こうして、まず番組「みんなのうた」用の動画映像が完成。各パーツは割りピンで繋がれ、たとえばパチンと片目がウインクすると、繋がっている他の顔の部分も、つられ少しだけ動く。こうした微細な点が、顔の動き自体のおもしろさへと繋がっていくと実感した。しかし絵本化にあたって、アイディアは再び暗礁に乗り上げる。

 「『さあ困ったぞ』(笑)。まさか絵本1ページずつ、割りピンで全部作っていくわけにもいかないし。そんなことをしたら、メチャクチャ高価な1冊になっちゃう(笑)。印刷所が製本するのも大変。どうしようかと困っていたある日、長男が『僕も何かつくる!』と言って、作品を持ってきたのです」

 それは、目の部分がくり抜かれた2枚の画用紙。少しだけ紙をずらすと、黒目がどこかへ行ってしまった。「これは使えるかも!」。そう直感したのりたけさんは、ページを上に重ね、下のページをずらすというアイディアを繋げていった。

 「何より体操っぽい。ページを重ねていきやすいように、長いページネーションをつくってもらうよう出版社にお願いして、できたのがこの本(の白紙の1冊)です。いじっているうちに、また、おもしろいことを思いついた。全部くるみ込めるから、前のページだけじゃなくて、後ろの、そのまた後ろのページとも組み合わせられる。それでできたのが『へんがおたいそう』。絵の組み合わせがいっぱいできる本になったんです!」

 組み合わせてできる「へんがお」は170種類以上。自分の顔に組み合わせ、お面にすることもできる。アイディアは無限に広がる。どれもこれも、顔の動きをおもしろがるうちに生まれた産物だ。

 「いろんな所からアイディアは生まれます。そんなに小さいところから!っていう所からでも、ズズズーッと引っ張り出せる。『おもしろそう!』ってヒントを大事にすれば、物事が生まれていく。それが『おもしろがる』ということ。皆さんにも分かってほしい。

 ただ、『おもしろがってください!』って急に言われても、すぐにはおもしろがれない。おもしろがり慣れていないんです。『おもしろがりのタネ』が目の前をコロコロ転がっていても、見過ごしてしまう。『これ、何だ?』っていちいち突っ込んでいこう。おもしろがるクセをつけていくと、世の中がバラ色に見えてきます!」

ワークショップ「ひょうげんのじゅう」

 ワークショップ「ひょうげんのじゅう」では、ハサミとのりを持参して臨んだ参加者に、のりたけさんが「一家総出で色づけを施した」という極彩色の色紙が配られた。この色紙を使って、各々は「1」と「0」の形をしたパーツを何組か切り抜いていく。切り抜いたパーツを自由に組み合わせ、「何か」に見立て、正方形の画用紙に貼り付け、提出。これがこの日のお題だった。

 虫メガネ、帽子、テレビ、ジュース、カブトムシ。いくつかの「1」と「0」のパーツを、少し位置を変えて貼ってみただけで、不思議といろいろなものに見えてくる。参加者が一通り、各々の作品を壇上に並べ終えたら、今度は周囲の人たちの作品を鑑賞し、それが何に見えるかを付箋に書いて貼り付けていった。

「かたつむり!」
「セロハンテープのカッター!」
「錫杖(僧・修験者が持ち歩く杖)!」

 本人が意図していない、思わぬものに見えたりする。さまざまな声が上がり、会場は笑いに包まれ、あっという間に時間は過ぎた。のりたけさんはこう締めくくった。

 「おもしろがる、という方法をもっと教育で取り込んでもらえればいいな。おもしろいことを教えるのは結構簡単。だけど、おもしろがることを教える経験は、そうそうない。こんなことを経験してもらえたら嬉しいと思います」