2019年の日本の出生数は政府推計より2年早く90万人割れ濃厚という。ベビーカーで電車に乗ると非難されるような社会では、さもありなん。本書の主人公も通勤電車でベビーカーに眉をひそめ、つわりで苦しむ妻に「朝飯も弁当もなしかよ」「産休入って働いてないんだしそれくらいしてよ!」と言い放つ。
そんな彼の出向先が安仁丸(アニマル)社。人間と同等の知性と感情を持ち社会的権利も認められた「知性動物」が集う会社である。そこで動物向け出産育児関連商品企画を担当することになったから、さあ大変。妻の気持ちもわからない男が動物を理解できるのか……と思いきや、仕事となると話は別で、先輩の皇帝ペンギンらにダメ出しされながらも、動物たちの多様な産卵・出産と子育て事情を学んでいく。
設定は荒唐無稽だが、大人の学習マンガとして読み応え十分。過酷な野生環境で少しでも多くのDNAを残すための動物たちの戦略には頭が下がる。「社会全体で子どもを育てる仕組み」を作ったヒトを知性化チンパンジーは賞賛(しょうさん)するが、今の日本は果たしてどうか。基本はコメディながら、成長した主人公が語る野望は感動的。少子化問題の大事なカギがここにある。=朝日新聞2019年11月16日掲載