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「BMXレースは40秒で勝負が決まる自転車の格闘技」 ふたりでメダルを狙うBMX選手の榊原兄妹(後編)

文:福アニー、写真:有村蓮

始めたことはなんでも100%やるようになった

――妹の爽さんは兄の魁さんに影響を受けてBMXを始めたとのことですが、魁さんがハマったきっかけは?どういうところに面白さを感じましたか?

榊原魁(以下、魁):小さい頃から自転車に乗るのが大好きで、よく両親と公園で競争したり、家の隣の空き地で急ブレーキして埃を立たしたりしてたんです。当時はオーストラリアのゴールドコーストに住んでたんですけど、家から10分くらいで行けるコースが二つあって、そこに通いながらBMXにのめりこんでいった感じですね。自転車が大好きだったことと、競争が好きだったことと、自転車でジャンプできるなんて夢のようだったんで、本当に楽しかったんだと思います。

榊原爽(以下、爽):最初は魁の練習やレースに連れて行かれて、私は横っちょで泥団子作ってて。それで両親が、爽はなにもしてないから自転車を買ってみようってなって、やらされたのが始まりです(笑)。その時はあんまり興味がなくて、BMXもっとうまくなりたい、真剣にやっていこうってなったのも15歳くらいで遅かったんですよね。魁がすごい頑張ってトレーニングしてるのを見て、私も頑張ろうかなって。新しいジャンプに挑戦したりどんどんスピードが出たり、楽しくなっていきました。

魁:僕はやりこみ過ぎちゃうけど、爽はやらなきゃいけないことはやるけどそれ以上のことはしないっていう、対照的な取り組み方でしたね。僕は体が硬かったから体幹トレーニングやストレッチをやってたんですけど、爽はやらなくて、結局僕のほうが柔らかくなっちゃうとか(笑)。

――前編中編でそれぞれチョイスした漫画の吾郎や、のだめっぽいですよね。選ぶ漫画でここまで人柄がわかるのかという(笑)。精神的にでも肉体的にでも、BMXをやることで身につけたものがあれば教えてください。

魁:BMXのおかげって言っていいかわからないですけど、始めたことはなんでも100%やるようになりました。レース出るのも、トレーニングするのも、学校の勉強やるのも、100%で挑む。BMXはチームスポーツじゃないですし、練習してもしなくても誰も文句言わないので、自分に対する責任みたいなものが出てきたんですかね。

爽:BMXはずっと続けてて、それしか集中してこなかったので、本当に好きなものを頑張ってやってきたことかな。小さい頃からバレエやピアノも習ってたんですけど、BMXを選んだ一番の理由は魁がやってたのが大きいです。BMXはユニークなスポーツだし、あんまり女の子がやってるスポーツではないし、見ててもかっこいいし、それがよかったかなと思います。

――いままで戦歴を重ねて、とくに印象的だった試合や挫折を感じた出来事は?

魁:僕は2017年にオセアニア選手権とオーストラリア選手権で優勝したことが、すごく印象に残ってます。19歳からエリートクラスっていうトップクラスに入るんですけど、そこに入って最初の2年は、国内では表彰台に1、2回ギリギリ上がれたくらい。それ以外は全然思い通りの走りができてなくて。16年から17年のオフシーズン(12月から2月あたり)に、講師やサポートしてくれてる人たちと何を変えなきゃいけないか話して、本当にその時期に頑張りました。

 体力トレーニングをメインにやって、体をさらに強くしましたね。こんなに強くなっててこんなに速いのに勝てないのはおかしい、この実力で勝てなかったらもうどんなに速くなっても勝てないって実感したので、勝たなきゃいけないってレースに対するアプローチを変えたのもよかったかもしれないです。それで3月にオセアニア選手権で初優勝することができて、本当にやっとという感じで嬉しかったです。

 あとすごい悔しかったのが、爽がその時ジュニアエリートクラス(18歳以下のクラス。19歳以上がエリートクラス)で、大活躍してたんですよ。初めてのワールドカップで表彰台上がってて、でも僕は準々決勝がベスト。その時に父に慰められたのが嫌で、「勝てなくてもいいって考え方じゃなくて、絶対勝ちに行こうって会話にしたい」って言ったんです。そこから親子共に意識が変わった気がしますね。

爽:私は今年の世界選手権で、自己最速を出せたことです。これまでいろんな大会で優勝してきたんですけど、それは違う人のミスで勝ったのかなとか、単にラッキーだったのかなとか、自分の中で完全に満足してなかったんですよ。でも世界戦で初めて最速を出せたので、すごい自信がつきました。結果として決勝でこけて7位になったのは悔しかったんですけど、そこまでのライディングを見ても、自分はこんなにできるんだっていう、いい経験になりましたね。

©ファーストトラック株式会社/榊原爽

兄妹でオリンピックを目指す姿を見てBMXを知ってほしい

――BMXは日本では、まだまだレアなスポーツですが、東京五輪の正式種目ということで注目度は高いと思います。初めて見る方々に向けて、見所や魅力をアピールしてください。

魁:BMXはレースとフリースタイルと2種目あって、僕たちはレースをしています。30秒から40秒で勝負が決まる、自転車の格闘技ですね。とにかくわかりやすいんですよ。8人で一斉にスタートして、時速60kmくらいのスピードでジャンプしながら、カーブを曲がりながら、ぶつかりながら走る。信じられないクラッシュの仕方をするから異次元だし、誰が見ても誰が一番速いかわかるから、ルールを知らなくても楽しめる。今回のプレオリンピック(テストレース)では爽が優勝したんですけど、途中まで3位だったのに最後のジャンプで1位の選手が減速して追いついて。そういう最後の一秒まで誰が勝つかわからないおもしろさもありますね。

©ファーストトラック株式会社/榊原爽

爽:一瞬で終わっちゃんですけど、そのなかでもライダーのコースのこなし方やジャンプの仕方、どうスピードを落とさないようにしているかを見てほしいかな。隣の人は何をするかわからないし、急にぶつかってきたり妨害してきたりすることもあるので、いまでも恐怖心はありますね。今年も何回かこけてしまって、二回ほど脳震盪になったこともあって。しばらくは怖がるようになってしまって、そこから徐々に自信を取り戻して、世界戦でやっと自分の走りができたっていう。今トップのライダーはオランダのローラ・スマルダースで、アメリカのアリス・ウィロビーも速いです。ジュニアの時から切磋琢磨してる日本の畠山紗英ちゃんにも負けたくないですね。

――日本人のお母さんとイギリス人のお父さんから生まれた榊原兄妹は、日本とオーストラリアの懸け橋になってくれるのではと勝手に期待しています。日本代表ではなくオーストラリア代表を選んだのは、競技環境や国のバックアップ体制、生まれ故郷ということが大きいのでしょうか?

魁:さっき話したジュニアエリートクラスになる時に、自分の代表する国を選ばないといけないんですよ。二人とも初めての世界選手権の時は日本に住んでたんで、日本代表で出て、その後に決めなきゃいけなかった。日本は6年間住んだところですし、日本語もしゃべりますし、ヘリテッジや身についた生活習慣もあって、二人ですごい悩みました。でもトータルで考えて、オーストラリア代表が合ってるんじゃないかって。いまオーストラリアに住んでるってことが一番大きかったかもしれないです。

――BMX全体を盛り上げていくために兄妹でできることはなんだと思いますか?

魁:それは二人でよく考えることなんですけどね。やっぱり僕たちBMXが大好きですし、BMXから生まれるマウンテンバイクや競輪、トラック、ロードの選手もいっぱいいるんで、すごくいいスポーツだと思うんです。兄妹でオリンピックを目指してる人ってあんまりいないし、これを機にもっといろんな人にBMXを知ってもらって、体験してもらえたらなと思っています。

――ちなみにオフの日のお気に入りの過ごし方や、リフレッシュ方法はありますか?

魁:僕、オフ苦手なんですよね(笑)。でも時間があったら読書かな。あとお年寄りになったらゴルフができるようになりたいので、いまから打ちっぱなしとかしてみたいです。

爽:ネットフリックスを観ることかな。ハマってるのは「テラスハウス」です。最新のも昔のも、日本語の勉強を兼ねて観てます。大ファンですね(笑)。

――それでは最後に、東京五輪に向けての意気込みを聞かせてください。

魁:オリンピックへの出場枠は、国別ランキングの順位で決まるんですよ。たとえばランキング1位と2位が3枠、3位から5位は2枠、6位から10位が1枠のように。オーストラリア男子代表は2枠取れるか1枠になるか、いまギリギリのところなんです。でもどちらになっても必ずオリンピックに出られるように、自分の全力を尽くして頑張りたいと思っています。

爽:オリンピックに出る準備はまだ全然できてないと思いますね。この前テストレースで実際のコースを走ってみて、結構難しくて体力も必要だと感じたので、まずはそれに合わせた練習をがんばりたい。そして兄妹揃って東京に戻ってきて、金メダルを取りたいです。

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