今年の日本ミステリー文学大賞は、辻真先さんに決まった。1932年生まれの87歳。受賞会見では「自分の代表作はいつも次の作品だと思っています」と意欲たっぷりに語った。
63年の「鉄腕アトム」から「名探偵コナン」まで、テレビアニメの脚本を手がけてきた。小説のデビューは72年の『仮題・中学殺人事件』。「迷犬ルパン」シリーズなど、膨大な作品を刊行している。長く書き続けるコツは「書きたいことがたくさんある。終わるといつもちょっと足りないと思うから、いつまでも書けるのでしょう」。
幼い頃から物語に渇望していた。「古本屋や図書館をまわっても面白い本はすぐに読み終わる。自分で書くしかない」という思いに至ったそうだ。「今も自分のために書いている。一番良い読者は自分。いつも読者に催促されていますよ」
近刊は今年4月に出した『焼跡(やけあと)の二十面相』。敗戦から占領期が舞台だった。「戦争の前後で大人は信用できないとしみじみわかった。そのうち自分も大人になりジジイになりましたが、当時の気持ちはいつまでも残しておきたい。ライトノベルやテレビアニメに興味があるのもそんな思いからでしょう」(中村真理子)=朝日新聞2019年11月20日掲載