どちらかと言えば、雨女です。
数年前、北穂高岳に登った時のこと。この日は珍しく晴れていて、雨女の汚名返上だ、と、はりきって山頂まで登ったら、ガスが一面に漂っていて、迫力のある槍ケ岳が見えるはずなのに、周囲は真っ白。上空の青空が逆にうらめしい状態でした。
しかし、そこに父と息子の二人連れが到着した途端、サッとガスが晴れていったのです。槍ケ岳を背景にシャッターを押してほしいと頼まれたのですが、そこで二人が取り出したのは、笑顔の女性の写真でした。
きっと、このご家族にとってここは大切な場所で、その思いが晴れをもたらしたのだと感じました。私も絶景をバックに写真を撮りながら、晴れのお裾分けをいただいたな、と清々(すがすが)しい気分になりました。
8月末に訪れたブラジル、リオデジャネイロでも同様のことがありました。弾丸ツアーのような日程の中でも、やはり、コルコバードのキリスト像は見ておきたいものです。
案内をしてくださったのは、世界中のどこよりも、リオデジャネイロが一番好きで、リオに住むためにその職業に就き、長年勤務した後、あと数日で帰国するため、何度も訪れたコルコバードもこの度で最後になる、という方でした。
陽光降り注ぐ場所、というイメージなのに、その日は朝から雨。ホテルからコルコバードに車で向かうあいだも、いっこうに弱まる気配はなし。駐車場からキリスト像のあるところまでは歩かなければならず、車の中から遠目で眺めるだけでもいいのでは、などと思っていました。
しかし、車を降りた途端、雨が止(や)んだのです。曇り空の下、キリスト像の後ろ姿を見ながら、階段を上って行きます。到着して、正面に周りました。すると、その瞬間、雲間から陽光が降り注ぎ、キリスト像を照らしたのです。神々しい。それ以外の言葉が思い浮かびません。
リオデジャネイロを愛する方への天からのプレゼントを、お裾分けしてもらうことができたのです。=朝日新聞2019年11月27日掲載