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「明日は生きてないかもしれない……という自由」書評 リブ先駆者による解放の書

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2019年12月14日
明日は生きてないかもしれない…という自由 私、76歳 こだわりも諦めも力にして、生きてきた。 著者:田中 美津 出版社:インパクト出版会 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784755402937
発売⽇:
サイズ: 19cm/243p

「なにごとも過剰は悪なのだ」「ときめくブスは美しくなる」「人はただ生きているだけでいい」…。70年代のウーマンリブ運動のカリスマ的存在だった著者が、これまでに新聞や雑誌な…

明日は生きていないかもしれない……という自由 [著]田中美津

 挑発的にいっちゃうが、田中美津を知らないでフェミニズムを語りたがる人はまぁモグリよね。
 〈あの時代、パソコンなんかないから、「便所からの解放」と題したビラを謄写版で刷って、新左翼やベ平連の集会で撒いたのね。そうしたら女の人たちが、争うようにビラを取りに来て……〉。ときに田中美津27歳。これが日本のウーマンリブのはじまりだった。2年後に出版された『いのちの女たちへ』(1972年)は日本の女たちにとって解放の書となった。
 そして47年。『明日は生きてないかもしれない……という自由』は、『この星は、私の星じゃない』(岩波書店・5月刊)に続いて出版された美津さんの短文&発言集だ。80年代に書かれたエッセイを中心に、講演録やインタビューを収録。メキシコで子どもを産んで帰国し、借金をして鍼灸学校に通う。30代のシングルマザーだった田中美津が語る、いわばリブのビフォーアフターだ。
 〈ウーマンリブを始める前は、なんかいっつも生きてることがユーウツだった〉。彼女を縛っていたのは5歳で受けた性的虐待の体験だった。〈「私はなんて穢れた子どもだろう」と思い苦しみ、その一方で「どうして私の頭にだけ石が落ちてきたのだろう」と悩み続けた〉。しかしやがて彼女は気づく。
 〈くそっ、私が苦しんだのは『バージニティの神話』のせいだったんだ〉
 本書の中でもっとも激烈なのはじつは小熊英二『1968』(2009年)で論じられた田中美津像への批判である。こんなとき彼女の筆はがぜん輝く。
 フェミニズムが学問ならそれに先行する70年代のウーマンリブは運動。フェミニズムが女性解放なら、リブは私の解放だった。ゆえに激しい攻撃にさらされた。〈四五年前に展開された「#Me Too運動」だったのね〉と76歳になった美津さんは書く。ほんとだ。だから響くんだ。
    ◇
たなか・みつ 1943年生まれ。鍼灸師。ウーマンリブ運動の先駆者。『かけがえのない、大したことのない私』など。