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「霧中の読書」書評 模範的な短文で説く人生訓

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2019年12月14日
霧中の読書 著者:荒川洋治 出版社:みすず書房 ジャンル:本・読書・出版・全集

ISBN: 9784622088455
発売⽇: 2019/10/02
サイズ: 20cm/227p

書物について書くことは、霧の中にいるようなものだ−。「風景の時間」「川上未映子の詩」「西鶴の奇談」など、荒川洋治が2016〜2019年に発表したエッセイから45編を選び、…

霧中の読書 [著]荒川洋治

 少年期から小説、詩歌に親しんだ著者の文芸エッセーである。多くの作家の作品を通して著者が学び、人生の指針としたことの骨格を丁寧に書き込んでいる。含蓄に富む見方がいくつも提示される。例えば昭和と平成の文学は「活版とオフセットのちがい」と説く。
 活版の時代は、活字をひとつずつ職人が拾いあげるので、書く側も正確に間違いなく書こうとした。しかし平成はパソコンの時代。著者は、活版からオフセットへの移行期(1980年以後の15年間)の作家と作品をリストで示す。やがて書物への気持ちがうすまるだろうとの見方は新鮮だ。
 色川武大の文章の良さから、田山花袋の地理を巧みに生かす手法(『田舎教師』)や芥川龍之介の文章との出会い、高見順、吉村昭、横光利一、木山捷平、後藤明生、さらにアーサー・ミラー、モーパッサンなどにまで筆は及ぶ。
 本書の魅力は、模範的な短文で説く読書家の人生訓にある。