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大型台風、温暖化…地球のために君たちができることとは ジャーナリスト・池上彰@静岡・富士市立伝法小学校

文:中津海麻子 写真:御堂義乗

 「大きな台風が来るぞと数日前からテレビや新聞で言っていたよね。みんなの家では何か対策をした?」
 池上さんの問いかけに、富士市立伝法小学校6年4組の児童たちは「植木鉢や自転車を家の中に移した」「窓が割れたときにケガをしないようテープで補強しました」「水やパン、カップラーメンを買い出しに行った」など、様々な台風対策を発表。「みんな意識が高いなぁ」と感心しながら、池上さんはこう問いかける。

 「これまで台風はある程度弱くなってから日本列島に上陸していたのに、今回は強いまま直撃しました。なぜだろう?」
 うーん……と考え込む児童の中から、ちょっと自信なげに声が上がる。
 「海の温度が温かかったから?」
 「その通り!」と池上さん。南の温かい海から上がった水蒸気が上空で冷やされて雲ができ、上昇気流が生まれて台風ができる、と解説した上でこう続ける。
 「以前は日本列島の近くの海水温が低かったから台風にエネルギーが供給されず、ある程度弱くなってから上陸していた。ところが今回は、日本の近くの海水温が27度もあったと言われている。本来、表面の温度が高くても台風が海水をかき回して下の冷たい水と混ざれば海水温は下がる。しかし、最近は下の方まで温かいので海水温は高いままで、水蒸気がどんどん上がり、結果、弱まることなく日本列島に直撃した、というわけだ」

地球の自転と気象の関係を解説する池上彰さん

 では、なぜ海水温が高いのか?
 「地球温暖化だと思います」と答えに、「そうだね。では温暖化はなぜ起きるのか?」と池上さん。
 「二酸化炭素が増えるから」と理解しているものの多くの児童がそこから先があやふやの様子。そんな中、一人が「二酸化炭素のような温室効果ガスによって温かい空気がこもって……」と発言。その回答を受け、池上さんは地球の気温と温室効果ガスの関係について解説を始めた。
 地球は太陽によって温められており、二酸化炭素や酸素、窒素といった空気の層に覆われていることで熱が宇宙に逃げることを食い止めている。現在、地球全体の平均気温は15度だが、もし空気の層がなければマイナス20度にもなってしまうという。
 「二酸化炭素があることによって人間をはじめ生物は生きていくことができる。しかし、二酸化炭素が増えすぎると太陽で温められた熱がこもってしまう。地球全体がまるで温室の中に入ったようになりどんどん暖かくなって、海水温も上がる。それが地球温暖化の仕組みなんだ」
 温室効果ガスは二酸化炭素だけではない。ロシア北部のツンドラ地帯地下の永久凍土には大量のメタンガスが埋まっていて、温暖化で氷が溶けると、温室効果が高いメタンガスが地表に出てきて、さらに温暖化が進んでしまう。
 「温暖化がますます進めば、今回よりももっともっと強い台風が日本列島に上陸する可能性が高くなる、ということなんだね」

 授業の後半は、質問タイムからスタート。積極的に手が挙がり、「おー! すごいな」とうれしそうな池上さん。ある児童の質問は「温暖化の影響で島が沈みそうだとテレビで見たのですが、日本もそのうち沈んでしまうんですか?」。
 池上さんの「確かに温暖化によって少しずつ海面が上がってきている。どうしてだと思う?」の問いに、質問した子は少し考え「北極や南極の氷が溶けるから?」。「なるほど。でもね、実は北極の氷が溶けても海面は上がりません」と指摘すると、「え?」「なんで?」の声が上がる。
 「ビーカーの水に浮かべた氷が溶けると、水は増えるか。増えないでしょ? 北極は海の上に浮かんでいる氷だから溶けても海面は上昇しません。でも、南極は大陸なので氷が溶けると水が海に流れ込み、海面は上がります。さらに、『北極圏』のアラスカやシベリアの陸地の氷も溶ければ、やはり海面は上がります」
 「へぇ~!」「そうだったのか!」。漠然と知っているつもりだったことがどんどんクリアになっていくのか、子どもたちの瞳がイキイキと輝き出す。

6年4組の児童一人ひとりに質問をする池上彰さん

 水は温められると膨張し、自転する地球の赤道あたりにもっとも遠心力が働くため、赤道付近の島は水没する危機に瀕している。「日本は赤道から離れているから沈む心配はない。でも、海面が上がると浜辺がなくなり、海水浴場が消えるとも言われています」。池上さんはさらに子どもたちに質問する。
 「温暖化になると、ほかにはどんなことが起きると思う?」
 「死んでしまう動物がいる」「人間も熱中症とかで死んじゃう」「砂漠化が進む」。池上さんは「動物も植物も、そして人間も、生きていくのが難しくなる。あとは食べ物。寒い地域や海だからこその美味しいお米や魚がとれなくなると言われている。私たちの食卓にも影響が出てくるんだ」。さらにこう続ける。
 「実は温暖化は、単に地球全体が暑くなるということではありません。これまで温かかったところが寒くなったり、寒かったところが暑くなったり。あるいは雨が降る地域で降らなくなる、逆で降らなかった地域で豪雨が起こる――。温暖化によって、そういった異常気象が非常に起こりやすくなるのです」
 問題は異常気象や自然破壊にとどまらない。北極の氷が溶けることで、船が通行できる新たな北極航路ができる可能性も。また、氷の下に埋まった資源が発見されたこともあり、周りの国が目の色を変え北極の利権を主張し始めているという。一方、アフリカなどで砂漠化が進むと、水不足の国が水の利権を奪うため他国に攻め込む懸念もある。

「温暖化は環境問題を起こすだけでなく、紛争や戦争の引き金になるかもしれない」
 池上さんは改めて子どもたちにこう問いかけた。
 「さぁ、ここからが君たちの課題だ。温暖化を防ぐためにはどうしたらいいだろうか?」
 「リサイクルしてゴミを減らす」「植物は二酸化炭素を吸って酸素を出すので、木や森を増やす」「なるべくクルマに乗らずに、歩いたり自転車を使ったりする」「太陽光や風力発電にする」……。次々と出る温暖化対策に池上さんは一つひとつ解説。そして、ある少女の写真を取り出した。スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんだ。

グレタ・トゥンベリさんの活動を紹介する池上彰さん

 地球温暖化を危惧し、去年の8月に学校ストライキを始め、スウェーデンの国会議事堂の前に毎週金曜日、学校に行かずにたった一人で座り込んだ。グレタさんに共感する動きが広がり、世界中の若者ら400万人が温暖化対策を求めるデモに参加をするまでに。国連総会で演説し、ついにEUの委員長が「2050年までに二酸化炭素をこれ以上出さない」という方針を打ち出した。
 「15歳が世界を動かした。みんなとそんなに年齢が変わらない女の子が世の中を変えることもできるということを、私は君たちに伝えたい」と池上さん。最後にこんなメッセージを送った。
 「日本は先進国で、電気も水道も整備されている。みんなは本当に恵まれているんだ。これから君たちの時代がくる。豊かな暮らしをしている私たちが地球のためにこれから何ができるのかを、ぜひ考えてください。私からみなさんへの宿題です」