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令和元年のマンガ界を振り返る 京都国際マンガミュージアム研究員ら4人

大英博物館の「Manga」展

原画の文化的価値高まる

 マンガ文化に関する資料、特にマンガの原稿=原画は、近年ますます、社会にとって価値のある、「アーカイブ」すべき文化資源とみなされつつある。今年、大英博物館で開催された大規模企画展「Manga」は、その傾向を加速させただろう。原画の展示にこだわった展覧会だったが、同館の様々な記録を塗り替えるほどの反響を残し、日本を含めた世界中のミュージアム関係者を驚かせた。

 筆者がコーディネーターを務める、文化庁によるマンガ原画のアーカイブに関するプロジェクトでも、全国の美術館・博物館1174館を対象にアンケートを行ったところ(回収率56%)、既に原画を所蔵している館は8%だったが、収蔵・展示等に関心のある館は約4割、将来的に収蔵したいと考えている館は約2割あり、予想を上回った。そうした施設によるマンガ原画アーカイブのネットワークができていけば、原画のより豊かな研究や活用も期待できるが、そのための具体的な制度作りが今後の課題だろう。(伊藤遊)

「生理ちゃん」に共感・反響

 昨年、初単行本化された小山健の「生理ちゃん」(KADOKAWA)。「生理」をおちゃめなキャラクターで表現し、声に出しにくい生理の悩みをユーモラスに描いて多数の共感を呼んだ。生理に対する偏見などへの風刺も込められた本作は、今年ますます話題に。第2巻を刊行し、映画化もされ、第23回手塚治虫文化賞短編賞に選ばれ評価もされたのだ。

 大丸梅田店とのコラボレーションも大きな反響を呼んだ。サニタリー用品など女性の性にかかわる商品を取り扱う売り場のオープンを記念した企画で、「生理ちゃん」のイラストが描かれたバッジを女性スタッフがつけることで、「月経中」であることを公に示すといった試みがなされたのだ。

 生理をオープンにすることで気遣いや理解を促したい、というのが目的だったが、批判が相次ぎ、取り組みは中止された。これについての賛否両論はわかるが、必要以上にタブー視されている現状への議論につながったのは有意義なことだ。(倉持佳代子)

歴史的な資料、台風で水没

 今年10月、台風19号によって川崎市市民ミュージアムへもたらされた甚大な被害は多くの人々に衝撃を与えた。1988年に開館し、マンガに関しても江戸期の版画、明治期以降のポンチ本・風刺雑誌といった歴史的資料や、様々な作家の原画などを専門的に収集していた先駆的施設であった。貴重な資料の数々を基盤とした企画展も評価の高いものが多く、2005年にはそのマンガ文化への貢献に対して、手塚治虫文化賞特別賞が贈られている。

 今回の台風による収蔵庫の浸水被害によって、マンガ文化の歴史を後世へと伝えていく営みの受けた傷がどれほど大きなものだったのかはいまだ計り知れないが、同時期に開催していた「のらくろ」展のおかげで、充実した出展資料が収蔵庫の被害を免れたのは、悲惨な状況の中のわずかな救いだ。京都アニメーションを襲った痛ましい事件とともに、マンガ・アニメ文化へあまりにも大きな傷痕が刻まれた1年でもあった。(雑賀忠宏)

一時代の終焉、感じた訃報

 今年は多くの訃報(ふほう)が続いた。「たとえ灰になっても」の鬼八頭(おにやず)かかし(2月)、「嵐電」のうらたじゅん(同)、「Mr.ボオ」の砂川しげひさ(3月)、「悪霊」の高寺彰彦(4月)、「孔雀王」の荻野真(同)、「パラノ天国」の小槻(こつき)さとし(5月)、「山田太郎ものがたり」の森永あい(8月)、「チョコミミ」の園田小波(同)、「旅たて荒野」の横山孝雄(同)、「風雲鞍馬秘帖(ひちょう)」の植木金矢(10月)、そして「ふたりと5人」「失踪日記」の吾妻ひでお(同)ら、それぞれにジャンルや年代も幅広く、読者が在りし日を偲(しの)んだ。

 特にいずれも双葉社「漫画アクション」の黄金期を支えた、「ルパン三世」のモンキー・パンチと「子連れ狼」原作者・小池一夫が同じ4月に亡くなった際は、改元直前ということもあり、一時代の終焉(しゅうえん)を実感させられた。折しも、同誌の創刊秘話を描いた吉本浩二「ルーザーズ~日本初の週刊青年漫画誌の誕生~」が今年完結、運命的な追悼本となった。(吉村和真)=朝日新聞2019年12月24日掲載