最初に「季刊地域」を手にとったのは、2019年春号の特集「ごみ処理は地方が一歩先を行く」が気になったからだった。「徹底リサイクルで年間250万円を稼ぐ町」とあって、いったいどういう仕組みなんだろうと。
めくると、取り上げられていたのは全国三つの自治体の取り組みで、なかでも徳島県の上勝町では、町の人々が徹底して資源ごみを分別し、回収業者に売ることで年間200万~250万円もの売り上げをあげるという際立った成果をあげていた。町にはごみ収集車が存在しないというから驚きだ。
ごみ処理問題だけではない。たとえば「『うちの地域に仕事はない』は本当か?」と題して、地方に行っても仕事がないというよく聞く話と、現場に聞けば人手不足という矛盾した状況の実相を掘り下げたり、「放棄茶園で新ビジネス」では、茶の実から油をとるあまり聞いたことのない事業が紹介されていたり、いろいろと興味深い。
膝(ひざ)を打ったのは諫早湾の干拓地における「裁判だけに頼らない新しい動き」の記事だった。あの潮受け堤防の、開けるも地獄、開けないも地獄みたいな状況には、まったく無関係の私も、解決策はあるのかと遠目に気になっていたのだ。もちろん完璧な解決策が提示されているわけではない。だが、ひとつひとつの記事が紋切り型でなく、現実に即した丁寧な分析や提案でできていることに、当たり前のことだけれども感心した。
こういう誌面づくりには粘り強い取材が欠かせない。全国津々浦々の細かい情報を拾って地域の本音を探り、他の地域にも役立ちそうな話題を収集するのは、相当な手間がかかるはず。
どんなジャンルでもそうだが、エラい人や評論家がもっともらしい概論で話すとき、現場には無数の齟齬(そご)やしっくりこなさがあるものだ。当事者にとってはビジネスの言葉では説明できない何かが大切だったりする。「季刊地域」には、その何かを拾い尽くしたうえで書こうという意志が感じられる。秋号の特集タイトル「スマート農業を農家を減らす農業にしない」からも、雑誌の軸足がどこにあるのかはっきりとわかる。記事を読んで希望を感じる地方は多いのではないか。
最新の20年冬号では「不在地主問題」が取り上げられている。所有者が地元にいなかったり、そもそも不明だったりする農地をどうするか。
切実な問題ではあるけれど、明るい誌面になっている。地域に寄り添い解決策を模索するその姿勢がブレないからだ。=朝日新聞2020年1月8日掲載