キン肉マンづくしの「酒場」でトークイベント
新宿・歌舞伎町のど真ん中にあるビルの5階。“肉”好きを自負する者たちの集まる熱い空間が、期間限定で営業している「キン肉マン酒場」だ。
作品の世界観で彩られた店内は、キャラクターが描かれた壁面、400体以上のキンケシが飾られたケース、当時の『週刊少年ジャンプ』が自由に読める本棚のほか、さまざまなグッズが並んでいる。コンセプトは、2019年11月29日金曜日(キン肉マンの日)に帝国ホテルで関係者を招いて開かれた「キン肉マン40周年感謝の会」。当日に招待できなかった読者への感謝の思いを込めて、パーティーの雰囲気を再現した。
オープン日のトークイベントに当選した人の中には、キン肉マンⅡ世に登場する組織「d.M.p」のロゴや、スプリングマンといった超人が描かれたファッションに身を包んだ猛者もチラホラ。テーブルには、ウォーズマンの出身地であるロシア料理のシャシリク(肉の串焼き)など、人気超人ベスト5にちなんだ料理が並ぶ。
メインイベンターの嶋田さんが入場すると、プロレス会場のように「嶋田!」コールが出迎える。トークのテーマは「40周年の活動記」。記念イヤーの2019年に行われた、展覧会やイベント、ラジオ出演やムービー企画などの様子を、スライドと共に振り返った。
1月に首都圏の鉄道沿線で開催されたスタンプラリーには、「作者で制覇した人はいない」と言われて奮起した嶋田さん本人も挑戦。「羽田空港の駅では、旅行に行く人たちがみんな楽しそうで、なぜ僕だけスタンプラリーしているのだろうと…。駅員さんたちにもファンが多くて、飾り付けをいろいろ作ってくれたのがうれしかったです」と語った。
5月には『週刊プレイボーイ』の表紙を漫画のキャラクター単体として初めて飾り、昨年の同誌売り上げ1位となる快挙も。嶋田さんは「グラビアでなく僕らの作品が表紙になることに不安があったんですけど、キン肉マンはほぼ裸なので」。『キン肉マン』最新話の掲載をWEBと雑誌で1週間ズラしたにもかかわらず「(SNS上などで)ファンの方がネタバレしないようにしてくれたのが、すごくありがたかった」と感謝を伝えた。
相棒・中井義則さんと50周年に向けた夢
昨年11月の「40周年感謝の会」には、有名タレントや格闘家のほか、アニメでキン肉マンの声を演じた神谷明さんや主題歌を歌った串田アキラさんも出席した。嶋田さんは「こんなに華々しいパーティーは、デビューの時の赤塚賞以来。まさかキン肉マンを40年もやって、華々しい席にまた立てるとは思っていなかった。今年で還暦なので、(50周年となる)10年後は70歳。でも、たぶん描いていると思いますね」と語った。
ここで、40周年を祝ってだるまに目入れをする企画が行われるが、嶋田さんは片目を入れたところでストップ。「僕には、中井君との夢があります。だから、次のキン肉マン50周年の時に、(もう一方の)目を入れたいと思います」と話すと、会場からは大きな拍手が巻き起こった。
最後に嶋田さんは「『キン肉マン』という脇の甘い作品に、40年間付き合っていただいてありがとうございました。これからも皆さんが読みたいという限りは続けていきますし、絶対にだるまの両目を入れたい。これからも応援よろしくお願いします」と締めくくった。
参加した20歳の女性は「今の作品は回想とかを入れて一人ひとりのキャラクターを丁寧に描くのが基本ですけど、『キン肉マン』は強そうなキャラがすぐに倒されたりして、いい意味で何でもあり。すごくエネルギーのある作品です。好きな超人は選べませんが、応援したいという意味では(主人公の兄の)アタルじゃない方のソルジャーマンに復活してほしいです」と話していた。
ちなみにキン肉マン酒場のメニューは嶋田さんも監修に協力。昨年の開催時にはハイボール片手の嶋田さんを目撃したという情報が多く、今年も「時々は出没します。会えたら声を掛けてください」と宣言。作者本人と会って直接本音が聞ける貴重な機会となりそうだ。
好きだからこそ続けられる。漫画をやめたいと思ったことはない
イベント終了後の嶋田さんに、10年後のキン肉マン50周年に向けた思いを聞いた。
――本編再開後の「キン肉マンが面白い」と、新しいファンも獲得しています。ベテランになった今でもハイレベルの連載を続けられる秘けつは?
中井君の場合は、絵のクオリティーを上げ続けるために教室に行ったりしていて、僕も頭が下がる思いです。漫画家は40代や50代になると年寄りの線というか、細くなってグニャグニャした線になりがちなんですけど、中井君は若い。キン肉マンはいまだに現役で連載を続けていることが、自分たちの若さを維持することにつながっているんじゃないかなと。
――今でも毎週の締め切りがあることが、モチベーションになっているのですね。
59歳で連載を続けている作家さんって、あんまりいないじゃないですか。でも、それがモチベーションになって、絵もストーリーもちゃんとしなければと思える。僕自身も、柔術やグラップリングを習いに行ったりして、技の研究は絶えず続けるようにしています。
――大好きな格闘技を勉強して、ご自身の健康にも作品にも生かされている。
そうなんです。結局は好きなことを楽しんでやるのが大切。中井君も、絵が好きだから勉強を続けているんですよね、それが相乗効果になって、『キン肉マン』をいい感じで続けていられるのかなと思います。
――もちろん好きな漫画だからこそ、続けられてきた。
漫画自体をイヤになったり、やめたいなと思ったことは一度もないです。連載をしていて、毎週が楽しいですし。
――後輩の漫画家さんに刺激を受けることは?
たくさんあります。特に『キングダム』の原泰久君にはすごく影響されてますので、彼が40周年のパーティーに福岡から駆けつけてくれたのはうれしかったです。彼の作品を読むと、僕たちが逆に気持ちを鼓舞されるんです。
――「友情・努力・勝利」というジャンプの王道を受け継ぐ作品ですね。
『キングダム』は連載の初めのころは人気がなかったけど、彼の師匠(井上雄彦氏)の教えで人物の目を大きく描いたら、人気が出てきたそうです。これはキン肉マンも同じで、アメリカ遠征編(コミックス4巻~6巻)で人気を落としたのですが、アメコミタッチをやめて、絵を丸く元に戻したら人気も戻った。作家は上手になると、それを見せたがるものなんですけど、僕たちは「元に戻す」という作業を毎週やっていますね。
毎週月曜日に、誰もが5年生の気持ちに戻れる作品を
――キン肉マン酒場には、20代や30代の若いお客さんも多かったです。
とてもありがたいことです。デジタルで連載を始めてからは、キン肉マンをあまり知らなかった方も、昔のコミックスを読んでくれるようになったと思います。実は、WEBで連載をやろうという話があった時は、抵抗があったんですよ。やっぱり紙にこだわりを持っていたので。でも、「ファンからの超人募集や人気投票のパイオニアになったように、WEBの先駆者になりましょう」と言われると、そういう言葉には弱くて(笑)。
――紙からデジタルの連載になって実感したことは?
月曜日にサイトが更新されるまでは、いつもドキドキしていますね。毎週のように『キン肉マン』がツイッターのトレンドワードになって。いい意見がいっぱいあれば報われたなと思うし、ボロカスに言われるとやっぱりヘコみます。それでも、全世界の人の意見をすぐに見られるというのは、昔なら考えられなかったことですし、作品にとって大きな力になっています。
――50周年に向けて、読者の方々にメッセージを。
『キン肉マン』がジャンプで連載していた時、小学校5年生ぐらいの読者が一番多かったんですよ。だから僕らは今も、5年生に向けてやっているんです。ちょっとエッチなシーンとか、大人びたことをやると読者には嫌われてしまう。ちょうど中井君と僕が出会った5年生ぐらいの頃に、みんな戻りたいんだって。
――20代の読者も60代の読者も、5年生の頃に戻れる作品ですね。
僕が40周年のスタンプラリーに行くと、周りで40代ぐらいのサラリーマンっぽい方も真剣にやっていて。いろんな方々が作品を読んでツイッターでコメントをくださり、作品が支えられているとあらためて思いました。満員電車に揺られて通勤して、会社ではイヤなことがあるという方も、週の始まりにキン肉マンを読んで小5の気持ちに戻って、励みにしてほしいですね。