- 『星の子』 今村夏子著 朝日文庫 682円
- 『カブールの園』 宮内悠介著 文春文庫 759円
- 『みみずくは黄昏に飛びたつ 川上未映子 訊く/村上春樹 語る』 川上未映子・村上春樹著 新潮文庫 825円
(1)は昨年芥川賞を受賞し、国内外で注目を集めている著者が2017年に発表した小説。主人公は水をあがめる宗教を信仰する両親を持つ少女。家庭内の亀裂、友情の芽生え、好意を抱く相手の裏切りなどを経験しながら成長していく。その過程が幼さを残す中学生の視点で淡々と語られるが、それが逆に直接的に描かれない闇を読者に想像させる。
(2)はSFの分野でも活躍している著者が2016年に文芸誌に発表した中編2作。翌年三島賞を受賞。表題作では、トラウマを抱えるIT起業家の女性が、祖父母が収容されていた日系人強制収容所の跡地で自らのルーツと向き合う。4歳から12歳までニューヨークで過ごした著者の経験も所々組み込まれている併録の「半地下」では、「英語と日本語の戦う戦場が僕だった」という青年の世界を描くために工夫された文体が際立つ。両作とも言語や文化のはざまで生きる人々の葛藤を探求する秀作だ。
(3)は長年の愛読者である川上未映子による村上春樹へのインタビュー集。13時間に及んだインタビューは創作過程から死生観まで様々なテーマを行き来する。ユーモアも交え、一見和やかな雰囲気で対話は進むが、「女性が性的な役割を担わされ過ぎていないか」など、そこに信頼関係があるからこそ聞ける鋭い質問も出る。文庫版のために追加された最新の対談に含まれる、村上が昨年父親について書いたエッセーに言及する川上とのやりとりも貴重な記録だ。=朝日新聞2020年1月18日掲載