「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。
今回は、2019年本屋大賞受賞作、瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』の世界へ。
17年間で4回も苗字が変わった主人公の森宮優子。血の繋がらない親の間をリレーされ、家族の形は幾度も変化してきましたが、いつも彼女は大きな愛で受け止められていました。それぞれの親たちが、それぞれのやり方で、優子の未来に向かってバトンをつないでいたのです。
「スタミナ」を食べる
旧正月に中国で新年を祝って餃子を食べることから、旧暦の1月1日は「餃子の日」なんだそう。ちなみに2020年は1月25日が「餃子の日」。ということで、さまざまな料理が出てくる本作の中でも印象的だった餃子に挑戦しました。
高校のクラスメイトたちとぎこちなくなってしまった優子を励まそうと、父親の森宮さんが作った料理が餃子です。「優子ちゃんが元気になるまで餃子を食べまくる」という、餃子三昧な日々を突如として宣告される優子ですが、森宮さんが手間暇かけて作ってくれた餃子を口にするたびに気持ちは和らいでいきます。
餃子の具はキャベツもにらも細かく切られていて、口の中に何も残らず、すんなり喉へ滑り込んでいく。野菜の水切りもしっかりされているから、少し冷めてもべちゃっとならずにおいしい。
1日目は、週末でもないのに、にんにくとにらが通常の倍入っているというパンチのきいた餃子。臭いを気にしながらも二人で50個の餃子をたいらげます。
2日目は、さすがに臭いを気にしてさっぱり餃子に。餃子の具は、しそチーズささみ、海老とほうれん草、そしてポテトサラダというラインナップです。
「でも、ささみに海老にポテトサラダが具って、これって餃子になるの?」と優子が尋ねると、「餃子の皮で包んでるんだから、餃子だよ」という森宮さん。
そんな森宮さんの言葉を信じて、本作に登場した4種類の具材を用意し、ひたすら餃子の皮で包んでいきます。全餃子が並んだ姿は圧巻! フライパンに並べて蒸し焼きにすると、「ジュウゥ……」という食欲をそそる音が聞こえてきます。
「餃子でも春巻きでも包む料理って、結局は空気感が大事なんだよな」
焼き上がった餃子を食べながら、森宮さんがふと口にした言葉。
餃子の皮で包まれていたのは、ただの具だけでなく、森宮さんの愛情もふんわりとやさしく包み込まれていたに違いありません。