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井出圭亮「こいまん」 脳がしびれる強烈な不協和音

 現実社会とは裏腹にフィクションの世界では極道ものの人気は根強い。ヤクザ×料理など意外な掛け合わせの作品も登場するなか、ヤクザ×少女マンガという究極のミスマッチに挑んだのが本作だ。

 主人公は“鬼の愛染”と恐れられる最凶ヤクザ。ケツ持ちするクラブのホステスに一目惚(ぼ)れし「俺の女になれ」と迫るも「私…『こいまん』みたいな恋がしたいので!!」と断られる。『こいまん』とは人気少女マンガ『友達以上恋人未満』の略称。その熱狂的ファンである彼女を落とすため、作中の胸キュン場面を再現しようと奮闘するが……。

 ヤクザとの恋愛を描いた少女マンガなら従来もあった。主人公が危険な香りのする男に惹(ひ)かれるというのは少女マンガの王道とも言える。それと本作が違うのは、ヤクザ視点で描かれていること。ベースは極道もので、そこに胸キュン少女マンガの世界観をブッ込んできたのである。

 両者が奏でる強烈な不協和音に脳がしびれる。“鬼の愛染”本領発揮の修羅場で図らずも胸キュン場面にシンクロしてしまうのには爆笑。『こいまん』劇場版アニメ上映中に起きた事件からの神展開には感動すら覚える。この異種格闘技戦に刮目(かつもく)せよ!=朝日新聞2020年2月1日掲載