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いろんな「ひとり」がいっしょの世界にいる  絵本作家・宮西達也さん@兵庫・明石市立清水小学校

文・安里麻理子 写真・首藤幹夫

「ホンモノは違う!」 読み聞かせに大興奮

 宮西達也さんの絵本『おまえうまそうだな』(ポプラ社)は、ひょんなことから赤ちゃん恐竜を育てるはめになったティラノサウルスのお話。「お父さんみたいになりたい」と慕われるうち、戦い方やほえ方を教えることに。

 その場面を宮西さん自ら勇ましくほえてみせる。「ガオー!」

 すると赤ちゃん恐竜もまねして「ガオー!」。

 のはずが、まだ小さいから「フワァ~」になってしまう。これを宮西さんがかわいらしい声でやるから「ギャハハ!」。「ホンモノの読み聞かせは違う!」と授業は大盛り上がりだ。

 この恐竜シリーズはアメリカやフランス、中国、韓国などでも翻訳、出版されている。読み聞かせの前に宮西さんは、スライドでこれまで訪れた国を紹介した。

 ニューヨークで会ったのは、世界的に有名な音楽家・坂本龍一さん。「2020年公開予定の、ぼくの原作映画の音楽を引き受けてくれたんだ。監督は劇場版『名探偵コナン』を作っている人だよ」と紹介すると、「すごい!」。みんな尊敬のまなざしに。

子どもたちと笑顔で言葉を交わす宮西達也さん

タコ、タコ、イカ、クラゲ、タコ

 他にも『はーい!』(アリス館)や『まねしんぼう』(岩崎書店)の読み聞かせでゲラゲラ笑ったあと、授業はメインイベントに突入した。

 この日は2年生全員の約120人が参加。さすがの宮西さんもこの大人数でワークショップを行うのは初めて。そこで2組に分け、まずは前半の組が「水の中の生き物」と「オバケ」の図画工作に取り組んだ。

 配られた段ボール紙に、マジックで思い思いに描いていく。ルールはひとつ。必ず黒とオレンジの2色を使うこと。描けたらハサミで輪郭に沿って切り分ける。

 タコ、タコ、イカ、カニ、クラゲ、タコ――。宮西さんが見て回ると何だかタコだらけだ。それもそのはず、ここは明石ダコの名産地。子どもたちにも水中の生き物といえばタコと刷り込まれているのか? タコを描いた一人、芝優心(ゆうしん)くんによると「考えたことないけど、タコカレーは家で食べる」。

 もちろん、魚もいる。ウロコをていねいに描き込む子に、「いい魚になってる」。チョウチンアンコウを描いた子には「すげぇな」と、宮西さん。

 オバケもいろいろだ。幽霊や一つ目小僧、見せ合いっこして「何それ?」「人魚オバケ」と、友だちの思いがけない発想に笑い転げる。

 難しかったのはハサミだ。絵の輪郭ギリギリで切り抜いてほしいのだが、子どもたちによると「段ボール、かたいもん」。大雑把になってしまう。

 「せっかく上手に描けたんだから、あきらめないで。自分で工夫しないと!」

 そう言いながら宮西さんは子どもたちの間を駆け回り、「周りをザクザク切ってから細かいところを切るといいよ」と手伝う。2年生の作品だからといって手を抜かない。複雑な形をしているカニも途中まで手伝い、「難しいな。でも、がんばれ」と声援を送る。

 どうにか切り抜いたら、裏に段ボールの切れ端をボンドでくっつけて土台を作る。それを宮西さんのところに持って行くと、大きな額に貼りつけてくれる。

 土台を作ったのは、絵が浮き上がって見えるから。ギリギリに切ってほしかったのは、絵が重なったとき、下の子の絵が隠れないように。そんな意図があった。

 「どこに貼る?」「もう少し切ろうか」。クラゲを描いた中村柑夏(かんな)さんは、「友だちのと並べてくれたし、名前も呼んでくれて、うれしかった」。一人ひとりに声をかけ、さらにハサミを入れ、レイアウトする。宮西さん自身が最後まであきらめない人だった。

子どもたちにアドバイスする宮西達也さん

虹、傘オバケ、宇宙ステーションが繰り広げる物語

 前半組が「水の中の生き物」だったのに対し、後半組のお題は「空にある物」。そして「オバケ」は共通で、やる気満々の子どもたち、我先にとマジックを握りしめた。

 雲、虹、太陽、飛行機、ロケット、UFO。さすがに空飛ぶタコはいないが、イメージが果てしない。宮西さんも「宇宙まで行くのか。いいぞ!」と期待大だ。

 西山樹(いつき)くんは、国際宇宙ステーションを思い出しながら作画した。宮西さんに「すごいの描いたな」とほめられて、「何て言われるかドキドキしたけど、よかった!」。

 オバケについても「うわ、コワッ」「かっこいいな」とコメントしながら、今度も切り抜きを手伝う。

 後半組は1人当たり描いた点数が多く、額に貼るのに時間がかかった。レイアウトしてもらうのを待つ長蛇の列を見て宮西さん、焦りながらもどの子の絵もおろそかにしない。「だって、みんな一所懸命描いたんだもの。大事にしなくちゃ」。

 額がぎっしり埋まっても列は減らない。そこで宮西さん、後半組の絵を前半組の額に投入することを決意。子どもたちも「どんどん貼っちゃえ!」と背中を押す。

 「見て! オバケ同士話しているようにも見えるし、流れ星の下でタコや魚が遊んでいるようにも見える。2色で描くというルールを守っただけで、一体感が生まれたね」。

 一人ひとりはいろいろだけれど、大事なことをひとつ守ればいっしょの世界でつながる。そんなことも考えさせられたワークショップだった。

 「それにしても、みんなのおかげで圧巻な作品になったよ!」と、宮西さんも楽しんだ授業となった。

一つひとつは小さな作品でも…