井上靖の小説『星と祭』が、舞台となった琵琶湖畔の住民たちの手で復刊された。琵琶湖での事故で娘を亡くした男が、湖畔に点在する十一面観音を訪ね死を乗り越えようとする物語だ。
1971年から朝日新聞で連載され、舞台になった滋賀県長浜市は「観音の里」と名乗るまでに。観音巡りは定着したが、そのきっかけになった書籍は絶版状態で、訪れた人が興味を持っても読むのは難しかった。そこで、井上と親交のあった地元図書館の元館長らが18年に委員会を立ち上げ、寄付を募るなどして復刊を実現した。
復刊した出版社の堀江昌史さんは「子に先立たれる悲しみや、遺体が見つからない苦悩など、災害が相次ぐ現代に通じる部分がある」と語る。全国から反響があり、重版もかかった。新たな装いとなった名作。多くの読者の心と足を動かした力は、今も実感できる。(滝沢文那)=朝日新聞2020年2月15日掲載