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「いま、解読する戦後ジャーナリズム秘史」書評 自己省察足りず劣化のメディア

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2020年03月14日
いま、解読する戦後ジャーナリズム秘史 著者:柴山哲也 出版社:ミネルヴァ書房 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784623086689
発売⽇: 2020/01/22
サイズ: 20cm/326,7p

いま、解読する戦後ジャーナリズム秘史 [著]柴山哲也

 本書を読んでいて、日本のメディアは自己省察が足りないとの感を受ける。たとえばつい何年か前、有事立法をめぐる論議が国会の内外で盛んであった。しかしもし有事の状態になったら、メディアはどう報じるのか、「メディア自身の『有事』が捉えられていない」と著者は指摘する。
 政府はNHKなどのテレビ局の動員を考えているようだが、と著者はいい、これはかつての「大本営発表」ではないかと案じる。
 著者は50代半ばで新聞記者生活を離れ、その後は国内外の大学などでジャーナリズム研究と教授生活を送っている。つまり、自らの記者体験を学問的に位置づけることを後半生の務めとしたわけだ。それだけに具体的で論の運びがわかりやすい。加えて、豊富な海外取材のエピソードも盛り込んでいるので、意表をついた読み物にもなっている。
 1981年、北朝鮮に取材へ赴いた折、ピョンヤン近郊の外国人用と思(おぼ)しきレストランで食事をとる。その奥の売店に、日本のたばこがあったので求めたという。売り子の少女が日本語を聞いて笑った。写真を撮ろうとカメラを取りに行くと、少女は二度と姿を現さなかった。まだ横田めぐみさんの拉致が日本国内でも知られていないときで、著者はのちに彼女ではないかと推察する。写真がそっくりだったのである。
 著者は、しばしばアメリカの国立公文書館に赴いている。そこで探していた重要な外交機密文書を見つけたが、館員は日本の外務省の了解がないと見せられないという。外務省はこれほどまで取材の妨害をしているのかと、著者は驚く。
 本書は、著者の記者時代に起こった各種の事件(文化大革命、ベトナム戦争、湾岸戦争、オウム事件など)についても自らの取材を踏まえ、日本型ジャーナリズムの特徴を整理する。時代はジャーナリズムの劣化という方向に進んでいるのか、と著者とともに呟(つぶや)きたくもなる。
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しばやま・てつや ジャーナリスト、メディア評論家。朝日新聞記者を経て、京都女子大教授などをつとめた。