川べりの路地の古アパート。そこに住みついた個性的な面々の暮らしぶりを描く連作集だ。住人同士のつきあいは一見近しく、どこかコミカルな日常のやりとりもあるが、一人ひとりの生きざまは重苦しい。家庭崩壊、DV、ヒモ、家出、自殺など、幸せな気分になれるエピソードはまず出てこない。人間という生き物の、ありふれているが救いようもなく卑しく弱々しい面が、著者特有の鮮やかなタッチで描き出される。読む者にとって、自分自身の奥底に隠された嫌なものにつながるような説得力で、なかなかたまらない気持ちになる。
しかし、絶望の押し売りとは違い、ここには根本的なところで肯定的な何かがある。重苦しさの先の、ぎりぎりのところでようやく描ける、人間への共感。ひどく辛口のまんがだし、歯ごたえもすごい。なのに、読み進むほどに滋味に満ちてくる。こんな作品にはめったに出会えない。
人間なんてこんなものさ。そんな著者の声が聞こえてくるようだ。決して投げやりな口調ではない。むしろ、そんなものこそが人間なのだという、厳しくも熱っぽいものが伝わる。この著者は、本当に人間が好きなのだ。そう思わせてくれる力強い劇画だ。=朝日新聞2020年4月18日掲載