1. HOME
  2. コラム
  3. あの小説をたべたい
  4. 辻村深月「ツナグ」の卵焼きおにぎりを動画で味わう

辻村深月「ツナグ」の卵焼きおにぎりを動画で味わう

「思い出」を食べる 辻村深月『ツナグ』

 「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。

 今回は、辻村深月『ツナグ』の世界へ。松坂桃李さん主演で映画化もされた作品です。

 一生に一度、死者と一晩だけ再会させてくれるという「使者(ツナグ)」。高校生の歩美は、祖母からツナグの力を引き継ぐべく、見習いとして依頼人たちと会う日々が始まります。突然死した芸能人に会いたいというOL、母親にがんを告知できなかった中年男性……。さまざまな依頼人たちとの関わりを通して、歩美自身も成長していきます。生と死を考えさせられる連作長編小説です。

「思い出」を食べる

 小さいころに両親を亡くした歩美には、両親についての記憶がほとんどありません。それでも覚えているのが、幼稚園の遠足のお弁当に入っていた卵焼きおにぎり。今回は、その特別なおにぎりを作ってみました。

普通の家では海苔で巻くおにぎりを、うちは卵で巻いた。ふりかけを混ぜて握ったご飯を、小麦粉と、溶いた卵につけて、一面ずつフライパンで焼いて固める。そうすると、表面が卵で黄色くコーティングされたおにぎりができる。

 黄色いおにぎりは、その見た目からして“幸せのかたまり”という感じです。歩美にとっても、家族との幸せな思い出の象徴だったのは言うまでもありません。

歩美くんのおにぎり、黄色い、と他の子から羨ましがられ、歩美自身も自慢だった。

 歩美が遠足の様子を描いた絵にも登場する黄色いおにぎり。絵が図画コンクールで入賞し、新聞に掲載されたことで絶縁状態だった祖父の目にもとまります。歩美のことを囲碁仲間に繰り返し自慢していたという祖父。「幸福の黄色いハンカチ」ならぬ「幸福の黄色いおにぎり」は、お互いがあずかり知らぬところで、離ればなれになった家族の心をつないでいたようです。