「骨の髄」書評 「荒ぶる魂」とらえた写真集
評者: 生井英考
/ 朝⽇新聞掲載:2020年05月16日
骨の髄 甲斐啓二郎写真集
著者:甲斐 啓二郎
出版社:新宿書房
ジャンル:写真集
ISBN: 9784880084817
発売⽇:
サイズ: 26×27cm/129p
骨の髄 [写真・文]甲斐啓二郎
すさまじい形相でもみ合い、顔をゆがめる男たち。泥まみれの足元、額の傷、上気した真っ赤な頬、からっぽの瞳。ふと本書を手にした人は一体なんの写真かといぶかしみ、意味を探って思わず凝視するだろう。
全力で駆ける男たちを追って揺れる画面。飛び交う炎、打ち合う竹ざおの下にもぐりこんだカメラ。
著者はスポーツ界で実績ある写真家だが、本書はスポーツ写真集ではない。被写体は世界各地の勇壮な伝承祭事ながら、民俗写真とも違う。一見すると暴動か蜂起、中には全共闘と機動隊の衝突場面かと尋ねる展覧会の客もあったという。
きっかけはサッカーの発祥とされる英ダービーシャー州のモブ(群集)フットボール取材。以来、彼は東欧や南米、日本各地で男たちが殴り合い、打ち合い、奪い合う光景を撮影し、目をみはる映像に作品化した。
スポーツの起源は神楽(かぐら)、すなわち神前に捧げる祭礼だ。神事の基底には荒ぶる魂が横たわっている。