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滝沢カレンの「陽気なギャングが地球を回す」の一歩先へ

撮影:斎藤卓行

そこは、暖かい太陽に包まれていた。

そんな穏やかな昼下がりに、似合わないイカツイ車には四人組が乗っていた。
途中で急ブレーキをかけたその車からは男女が出てきた。

その四人は常習と言ってもいいほのど街を騒がす銀行強盗だった。
ただ、まだありがたいのは誰一人として危害を加えないことが目標だからだが、だからといってしていい話でもなかった。

だがこの四人組には秘密があったのだ。

そう、人に危害を加えたらその先にはもっと恐ろしい結末が待っているからだ。

そんな四人は今日も銀行強盗のため知らない街に来ていた。
街から街へ、国から国へと海すら渡るしぶとい奴らだった。

なぜこんなに捕まらないか、というとこの男女にはみんな特殊な能力があったのだ。

リーダーのマックスは、身体を炎で覆うことが可能だった。
熟年の耐炎の体で熱さすら感じない男だった。

そのためだれも近寄らず、姿形さえ見えなくさせるのだ。
それに合わせて、水でもその炎は消せないのだ。
消すことができるのはマックスの呪文「ファイヤーエイエイ」だけだった。
ただそれを連続して炎で隠れられるのは10分間だった。

これはほかの3人も巻き込むことができた。
体型は背が高く、ずる賢い顔をしていた。

そして副リーダーのトップスは、速さが光より速かった。
足も、手も移動も光を驚かす速さを持っていた。

通り過ぎたあとにはものすごい強風すら感じるのだ。
トップスはとにかくかっこいいためそこも武器の一つだった。

そして唯一の女、マッカラン。
マッカランは女性だというのに力がすごかった。
市バスを持ち上げられる怪力だった。
美しい見た目からは想像もできない、力持ちだ。

そして最後は、ガッズ。
名前の通りそれはそれは大きくたくましい筋肉だった。
そこらの岩より全然おっきかった。
ゴツゴツした体型はまるで恐竜だった。

ガッズはなんと空が飛べた。
身体によってマッカランほどではないが、そりゃ普通の男よりは力もあったのだ。

この特殊的な四人が集まればそりゃもう怖いもんはなかった。

いつもこの四人には流れがあった。

まずマッカランが先に入り色気で周りを轟かせた。
そしてそんなふいな時間にあとのマックス以外の2人が入り、安全な限り周りを脅し、お金がほしいと裏金庫へ誘導させる。

入り口には炎をまとえるリーダーのマックスが見張っていた。
なぜなら炎に近づく人間はいないからだ。
水にも強いマックスが適役だった。

そのすきに、マッカランの力づくな力で南京錠をこじあけ、光より速いトップスがお金をマッカランがもつ袋の中に放り込んでゆく。
そして最悪な事態になりそうなときは、マックスを拾いガッズが天井を突き抜けて逃げる。

という流れだった。

これでどの警察も捕まえることはできなかった。

今日も当たり前のようにそんな流れをする予定だった。

マックス「今日も我ながらの流れでいくぞ」
マッカラン「えぇ。任せてよ」
ガッズ「おぉ」
トップス「よし今日も奪うぞ〜」

そして四人は銀行に立て込んだ。

だがこの日はどうもトップスの速さがいつも通り力がでなかった。
だが、トップスは仲間には黙っていたのだ。

(昨日走ってる時に石を巻き込んだようだな。アキレスがまだしみるぜ。まぁ大丈夫か)

そんな気持ちで今日も同じ要領で行う気満々だった。

だが、いざお金をマッカランの袋にいれようと足を踏み出したときに、「バキキキキッ!」アキレスからとんでもない音が聞こえた。
「うわぁぁぁぁぁ」
マックスも負けないほど声を出してしまった。

3人がひやっとした。

トップスの光の速さはこの欠けてはいけない大事な力だった。
そのため、現金をマッカランの袋に入れていく作業に大きな時間差が生まれたのだ。

通常の速さになってしまったことにより、マックスが炎を燃やす時間に限界がきてしまった。
マックスは次の炎を出すまで10分間必要だったのだ。
その隙になんと助けに入ろうとした、通行人を傷付けて妨害してしまった。

手を上げたマックスは、青ざめた顔で手を見た。
その瞬間ガッズが2人を抱き抱え、さらにマックスも持ち上げて一瞬で空に身を隠した。

空の上では、4人が話し合っていた。

「お、おれ。つい焦っちゃって普通の人間をな、な、殴ってしまった」
「いや、全部俺のせいだ。俺が昨日痛めた足を言わなかったから。本当に申し訳ない」

「はぁ。もう悔しがっても無駄よ。来るときは来たのよ。私たちだって人間。そりゃ失敗する日がくるとわかっていたわ」
マッカランが冷静に分析した。

ガッズも続けた。
「あぁ。仕方ねぇよ。今までの毎日が違ってくるだけだ。うし、そろそろ降りるぞ」

この四人組はなんだか冷静に事を受け止めたようだった。

そう、この四人の特殊能力には決まりがあった。

それは絶対に「人を傷付けないこと」。

この約束を破った人が一人でもいたら、この四人組の特殊能力は無効となり、単なる人間になるのであった。

それを四人は知っていた。

「明日からただの人間ね」
マッカランが呟いた。

「どうする? 俺たち」
「まぁ一緒に行動しててもしょうがないわ」
「あぁ、そうだな。俺らは今日で解散ってわけだ」
ガッズがサラッといった。

そしてガッズは3人をそれぞれバラバラの地域に連れていき、ガッズ自身もみんなとは違う場所に降りた。

絵:岡田千晶

次の日から極悪だった四人の生活は一変したのだった。

リーダーのマックスは、漁業に就いた。
元々水とは無縁だったためある意味火がついたのか、水に近い職業についた。
毎朝3時起きで、鮭やマグロを取る。

トップスは、速さとはかけ離れた穏やかな老人ホームに就いた。

マッカランは、知的さを持ち合わせていたので小学校の先生に就いた。

そしてガッズはおっきな身体でパン焼きになった。

それぞれ極悪な毎日だったみんなは、人の役に立つそれぞれの仕事に就いた。

そんな特殊能力がなくなったバラバラになった彼らだったが、4人はまた再集結することになるのだ。

きっかけはトップスの老人ホームの仕事だった。

世界中で問題になっている空気中に塩が多く含まれるという環境問題により、老人たちの活力がなくなりつつあると言う、大変焦るような状況だった。
トップスは日に日に元気を忘れる老人たちのために家にも帰らず、付き添っていた。

トップスは久々に仲間だったガッズに連絡した。

「やぁ、ガッズ。久しぶりだな。実はな、俺の今働いてる老人ホームでのことなんだけど・・・・・・。いま世の中で環境問題となっている塩分の空気のせいで、老人さんたちの体力は奪われてしまって。なんか方法ってないかな?」

「それは大変だな。どうしたら・・・・・・。俺もちょっと研究してみるよ。またなんかあったら連絡するからな。頑張ってくれよ」

その後ガッズはすぐさま、マックス、マッカランに電話をした。

「え?! トップスがそんなに悩んでいるの?」
「それは力になってあげたいわ」

マッカランは学校の先生であったためすぐさま協力してくれた。
マックスも海にも関わる塩の話だったため理解は早かった。

そうして、ガッズ、マックス、マッカランは集結した。
仲間のトップスを救うために・・・・・・。

塩分が空気中に浮くことで老人たちはなにをするのにも疲れやすくなり、笑顔が減っている、と考えたマッカランは、小学生の受け持ちの生徒を集合させた。

そしてパン屋で働くガッズはパンが作れる道具を一式持ち合わせた。

マックスは、漁業をしていたため海中の塩分を調整する特殊な器具を持ち合わせて老人ホームに向かった。

「トップス!」
マッカランが老人ホームで悩める顔をしたトップスに張り切り声を出した。

「マッカラン!! え? マックスに、ガッズも! 一体どうしたんだい?」

「当たり前だろ! 仲間を助けるためだよ!」
マックスが放った。

続けてガッズも「みんなお前に協力したいってよ」。
「私たちに悩みは似合わないわよ」
マッカランがウィンクがてら言った。

「でも一体、どうやって悩みはなくなるの?」
「ははっ! みんなー! かもーん!」

マッカランの一言で後ろから30人くらいの小学生が騒ぎながらやってきた。
続けて、マックスの同僚が4人がかりで塩分調整機を運び、ガッズの相棒がパンを作る道具を持ってきていた。

「!?!? 一体なんだ?」
トップスはあまりの訳わからない風景に閉じ込められていた。

「いいからいいから、みんながいる広間に案内してよ!」
マッカランはイケイケに誘導するよう言った。

「あ、うん」
トップスは老人が集まる広間に連れて行くと、急に小学生たちがホワイトボードに字をかきはじめ、漁業仲間のマックスたちは、部屋の各場所でなんだか機械を動かし始め、パン屋かとおもうパン作りの机がガッズたちにより次々とセッティングされていった。

老人たちは「え? なんなのかしら」「なにがはじまるの?」とがさがさしていた。

すると、あれよあれよという隙に明るい広間が出来上がった。
そして小学生たちが、ホワイトボードに「陽気なパン屋さん」と鮮やかに書かれてあり、「いらっしゃいませー!!」と声を合わせて老人たちを迎えいれた。

「おばあちゃん、おじいちゃん、こんにちは。毎日塩分の空気で元気が出ないと聞きました。僕たちは今日そんなおばあちゃんおじいちゃんの笑顔が見たくてやってきました! 塩のない世界を、最大限披露します。そして世界一美味しいパンを食べて元気をだしてください」と小学生の坊主くんが元気よく説明した。

「へぇー!」
「まぁ、すてきなお話」
「たのしみだね、なんだか」

老人たちはあっという間に顔を緩め始めた。
徐々に塩分も酸素から抜かれていったのだ。

老人たちは思う存分なかなか買いに行くこともできなかったリクエストしたパンをたらふく食べたり、子供たちと歌を歌ったり、ゲームをして塩分のない広間で夕方になるまで楽しんだ。

「今日は本当にありがとう。トップスくんの仲間なんだって? 本当にトップスくんもみんなもありがとう。おかげでとっっても楽しかった」
老人たちの顔には笑顔が残った。

この行動はすぐさまトップスの街に新聞となり載った。
さらに老人から老人に伝わり国中で注目される出来事となった。

マックスが漁業で使っていた塩分調整機が塩分の空気に効果てきめんだったとして、マックスは国から讃えられる、ルーリニア賞を受賞し、数々の研究の委員長となった。

マッカランは指導の神と言い伝えられ、マッカラン小学校が開校され、生徒の数は3〜5千人以上のマンモス小学校となった。

ガッズは、パンの腕が認められて世界各地が選ぶパンの名門、クロワッサン小麦大学の名誉あるパン職人として椅子を添えた。

そして、トップスは老人たちにさぞかし褒められ、老人ホームのヒーローと呼ばれいまも変わらず同じ老人ホームでひたすら輝き続けている。

ギャング真っ盛りだった4人は、特殊能力をなくした後に、地球を回すような快挙を遂げたのだ。

それを人はこう呼んだ。

「陽気なギャングが地球を回す」

(編集部より)本当はこんな物語です!

 カレンさん版の4人組は特殊能力を連携して「地球を回す」快挙を成し遂げますが、オリジナルの4人もいずれ劣らぬ能力の持ち主です。人の噓を見抜く名人、卓越した技量を持つスリ、やたらと弁がたつ演説の達人、そして秒単位で時間を計れる体内時計の持ち主。4人がチームワークを駆使して、誰一人傷つけることなく、鮮やかに銀行強盗を成功させるまでが前半のハイライトです。が、その逃走中に思わぬハプニングに見舞われます。同じく逃走中の現金輸送車強奪グループに盗んだ金を横取りされてしまうのです。

 4人は奪還に動きますが、不穏な影がちらつき、死体までも出現します。結末は本書をお読みいただくとして、全編を通じて繰り広げられる4人の会話はどこかオフビートで、とにかく楽しい。サスペンスフルでありながらドタバタ喜劇のような展開とともに、伊坂幸太郎の持ち味がいかんなく発揮された初期代表作です。続編『陽気なギャングの日常と襲撃』『陽気なギャングは三つ数えろ』も刊行されています。