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城郭テーマのミステリー短編集 澤田瞳子さんが薦める新刊文庫3冊

澤田瞳子が薦める文庫この新刊!

  1. 『御城の事件 〈東日本篇(へん)・西日本篇〉』 二階堂黎人編 光文社時代小説文庫 各968円
  2. 『からころも 万葉集歌解き譚(たん)』 篠綾子著 小学館時代小説文庫 770円
  3. 『薫大将と匂(におう)の宮』 岡田鯱彦(しゃちひこ)著 創元推理文庫 1100円

 (1)はミステリ作家・二階堂黎人氏の呼びかけに応じた作家陣による、城郭をテーマとした書下(かきお)ろしミステリ短編集。幻の城と名高い帰雲(かえりくも)城からご存じ江戸城、現存の城を複数組み合わせた想像の城まで、城マニアならずともついページを繰る手が早くなる。しかも各作家の個性を生かし、アリバイものあり伝奇ものあり、当然、本格ミステリあり。登場人物も徳川家康・豊臣秀吉などの有名人はもちろん、忍者に画家、キリシタン大名など多種多様なのだから、こんな贅沢(ぜいたく)な短編集は滅多(めった)にお目にかかれまい。巻末に城用語集が収録されているのも心憎い。

 (2)の舞台は江戸日本橋。失踪した薬種問屋の手代が日記に残した『万葉集』ゆかりの和歌が、思いがけぬ謎解きの鍵となる。父の行方を求める小僧の助松を通じ、『万葉集』や江戸狂歌についても学べる一冊。

 (3)昭和二十五年の発表以来、幾度も再版された名作の約二十年ぶりの新版。
 未完説もある源氏物語・宇治十帖の完結編を、古本屋で手に入れた「私」。その内容は、実は実在の人物だった薫と匂宮が巻き込まれた殺人事件の謎を、紫式部と清少納言がいがみ合いつつ解き明かす最古の探偵小説だった――という王朝愛に溢(あふ)れた表題作の他、清少納言や光源氏を主人公とする短編も収録されている。
 作者は東京物理学校(現・東京理科大)で物理学を専攻後、旧制一高を経て東京帝大文学部国文科に進み、東京学芸大教授となった人物。同時収録の三本のエッセイも必読だ。(小説家)=朝日新聞2020年5月23日掲載