あなたの苦手なものは、なんですか? 主張が強い人、納豆、読書感想文……。そんな「苦手」から救ってくれるかもしれない、不思議な本がある。シンガー・ソングライターの小島ケイタニーラブさんがイラストレーターの木下ようすけさんとつくった『こちら、苦手レスキューQQQ!』(白水社)だ。
主人公はコンビニ店員のケイタニー、キノピーと、なぜかネズミ。人それぞれの「苦手なモノ」にバーコードリーダーを当てると、モノたちの心の声が聞こえてきて……。42カ所あるQRコードをスマホで読み取ると、ユーチューブでオリジナルソングが流れ出す。
小島さんは「何かが苦手な状態は、思考停止そのもの」と話す。日々、社会の分断が進み、思考停止が起きていると感じ、自分なりに何かしたいと考え続けてきた。「たとえば、トマトが苦手と言い切ると、トマトと自分の距離はそこで決まってしまう」
苦手への対処法は通常、二通り。距離を取るか、克服するかだ。でも、それだけ?と考えた。本書では徹底して「苦手」とされたモノたちの事情を聞き取り、受け止める。「対象を見つめることと、自分なりに小さな想像を重ねていくことだと思う。100%理解はできなくても、想像できることが増えていく」
「何かが苦手、という話は、誰とでも盛り上がれる良い面もある」と言う。掲載された数々の「苦手」は、昨年始めたワークショップイベント「苦手サミット」やインタビューを通じて実際に聞き取ったもの。今春はインスタライブを開き、議論の盛り上がりに手応えを感じた。
「この本に触れて、一緒に冒険してくれたみんなが仲間だと思っている」。読み終わった、のその先がある本だ。(興野優平)=朝日新聞2020年5月30日掲載