1. HOME
  2. インタビュー
  3. つんく♂さん「ねぇ、ママ?僕のお願い!」インタビュー 初めて手がけた絵本も作詞のように

つんく♂さん「ねぇ、ママ?僕のお願い!」インタビュー 初めて手がけた絵本も作詞のように

つんく♂さん=大江麻貴氏撮影

出版に先駆け、読み聞かせ動画無料公開

 音楽プロデューサーのつんく♂さんが、初めて絵本づくりに挑んだ。6月19日発売予定の、『ねぇ、ママ?僕のお願い!』(双葉社)で、少年と母との小さなすれ違いと思いやりを描く。シャ乱Q、モーニング娘。と時代に寄り添いつつ独自の存在感を放ってきたつんく♂さん。現代ならではの手法で、出版前から世に出たこの作品について、メールインタビューした。

 「あのさ あのさ えっとね」。母の日を前に男の子は、お母さんにお願いしたくて、でも、言い出せないことがあった。親には思いがけない子どもの成長の物語を、二人のセリフと心の声だけで紡いだ。イラストはなかがわみさこさんが担当した。

 つんく♂さん自身も3人の子育て中だ。「自分を振り返っても、きっと親の理想通りには育ってこなかったろうなって思います」。それでも期待してしまう親心。それに対して子どもたちは「いかに裏切るか」という大喜利をしているようだと感じている。「最終的に、その結果を『うまい!』と褒めてやれるか『冗談はよせ!』と叱るか、それも親次第なのかな、と」

 幼児向け番組に多くの楽曲を提供するなど、子どもたちにメッセージを発信してきたことを見込まれ、出版社から持ちかけられた。「全ては作詞する時のイメージ『一枚の写真』、これが僕の原点です」。絵本の世界観を詞と曲にした「小さな手」(歌はクミコさんと井上芳雄さん)も、6月24日に日本コロムビアから発売予定だ。

 新型コロナの影響で絵本の発売は1カ月延期されたが、出版に先駆けて全編の読み聞かせ動画を「母の日」目前の今月6日に無料で公開。視聴者も読み聞かせ動画をつくれるようにと、素材まで提供した。9歳の次女が声の出演を務めた動画の再生回数は8万回を超えた。

 自宅待機を余儀なくされた親子に届けたいと願いを込める一方で、この無料公開は、「サブスク時代」への一つの答えでもあった。

 サブスクリプション(定額制配信サービス)やユーチューブの普及で、音楽や動画が聴き放題、見放題の現代。コロナ禍によって、CD売り上げを支えていた握手会も中止、CDショップの休業も相次ぎ、局面が変わった。

 「『サブスク』をどう取り入れていくか、というテーマにこんなに早く直面するとは思わなかった」とつんく♂さん。「どうせ印税収入がなくなる(ゼロではないが無いに等しい)のであれば、結果我々アーティストというのは『見て欲しい』『認めて欲しい』という『承認欲求』がまず先なので、だったらとにかく見て欲しい、という結論に至っております」

 絵本はその表現の一つだという。「手前味噌(みそ)ではありますが、我が娘をひっぱりだして『ちょっとやって』と。結果、それも含めて良い作品になったなって思っています」(興野優平)=朝日新聞2020年5月30日掲載