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大嶋宏和「LOW LIFE」 のぞき見る日常の滑稽な愛おしさ

 マンガの登場人物には2種類ある。画面に写ったときだけ演技している人と、その世界でずっと生きている人。本作の場合は後者である。

 大学を卒業したが就職できず実家で無為に過ごす男、初めての一人暮らしで隣人トラブルに遭遇した女、定年後の時間を持て余し歴史ハイキングツアーに参加した男……。そんな冴(さ)えない人々の日常を淡々と描く8編の連作集。

 大きな事件は起こらず明確なオチもない。しかし、普通なら写さないようなところまで写す作者のカメラは、他人の生活を覗(のぞ)き見しているかのような緊張感と背徳感をもたらす。珍しく出席することにした飲み会での振る舞いを事前に練習したり、微妙だったハイキングを「行ったかいがあったな」と熱弁したり。孤独や疎外感を抱えつつ不器用で空回りする人々の姿はやるせなく滑稽だが愛(いと)おしい。

 フラットな線、シンプルなコマ割り、左開きで横組みというビジュアルは海外コミックの雰囲気。それでいて、描かれる人間関係はどうしようもなく日本的というのが皮肉である。隣人トラブルを双方から描くなど相対化の視点も鋭い。全体にほろ苦くはあるが、後味は悪くない。彼ら彼女らの人生に幸あれかし。=朝日新聞2020年6月6日掲載