最初の構想は女装ものだった!?
――まずは本作が生まれたきっかけから教えてください。
せかねこ:この作品の前に『バイトの古森くん』『後輩くんは甘やかしたい』という漫画を出版していて、次は創作漫画を出そうとなったとき、担当の山崎さんから「せかねこさんの好きなものを描いてください」と言われたんです。私は性癖というか女装が好きなので、張りきって設定を考え、いざ描いてみたらすごくつまらないものになってしまったんです。自分の好きなものをテーマにできるとはいえ、こんな作品を世に出していいのだろうかと思い、ちょっと息抜きのつもりでパラパラと書いたのが「ほむら先生」でした。
山崎:せかねこさんにいくつか設定の違う漫画を描いてツイッターに投稿していただいたところ、「ほむら先生」は読者からの評判が圧倒的に良かったので、正式にこちらを描いていただくことになりました。せかねこさんの趣味嗜好である「女装」ものは設定がまったくまとまらずに断念したそうですが、「ほむら先生」は、ほぼ迷いなく設定まで決まったそうなので、今振り返ってみても、あの時に女装ものでスルスルと進まず良かったなと思います(笑)。
――本作には、ほむら先生を一途に思う蓮見さんの嬉しさや切なさ、甘酸っぱさが散りばめられていて、読み進めるほど「恋っていいな」と思いましたが、せかねこさんは恋愛ものを描くのはこの作品が初めてなのだとか。
せかねこ:私はあまりキャピキャピした学生ではなかったので、ずっと恋愛系の漫画を描くのに抵抗があったんです。でも、本作を描くにつれて今は大分ふっきれてきています(笑)。特に学校ものにしようと思っておらず、ほむら先生や蓮見さんのキャラクター設定もパっと思いついたので、設定も深く考えないまま始めてしまった感じです。
――山崎さんは本作のヒットの理由をどんなところにあると捉えていらっしゃいますか?
山崎:1巻発売時の反響が過去の作品に比べてもとにかく大きく、一時はほぼ売り切れ状態になって私たちも驚きました。読者の感想を追いかけてみると、学生時代に先生に恋心を抱いたことがある人がとても多く、そういう人が共感しながら読んでくれていることがわかりました。また、先生と生徒との恋愛漫画の場合、その多くは現実離れした展開になりがちだと思うのですが、本作はほむら先生が適度な距離感でヒロインの蓮見さんと接しているところが、逆に読者の支持を集めている理由だと思います。
――学校は学生にとって一日の大半を過ごす場所なので、そこにいる大人の異性=先生を好きになることは、自然な感情なのかなと思いました。
せかねこ:先生と生徒の恋愛って難しいテーマじゃないですか。大体の教師と生徒ものって、結局誰かに見つかってピンチになって、先生がどこかへ飛ばされてしまったりしますよね。私はドラマや映画のハラハラした展開が苦手で、感情移入しすぎてしまって見ていて辛くなってしまうんです。なので、友達以上恋人未満というか、ちょっと特別な関係みたいなものは意識しつつ、気軽にほのぼのと読めることをテーマに考えた時、やっぱり一線を越えない方がいいのかなと今は思って描いています。
――蓮見さんの夢に、同級生になったほむら先生が出てくる第45話の「ほむら先生と同級生」が山崎さんの推し回だそうですね。
山崎:この回は、他のエピソードに比べて少し切ない雰囲気があるのが個人的にとても好きです。読者をキュンキュンさせるエピソードだけでなく、こういう奥行きを感じるエピソードも描けるのが、せかねこさんのすごいところだなと改めて思いました。
ダメな大人として、ほむら先生に感情移入
――せかねこさんは作品を描いている時、ほむら先生と蓮見さん、どちらの気持ちに感情移入しやすいですか?
せかねこ:断然、ほむら先生ですね。ほむら先生のやっていることや思っていることは、私自身が思っていたりやらかしたりしたことなので、ダメな大人として「自分だったらこうするだろうな」ということをほむら先生にあてはめて描いています。
――蓮見さんがほむら先生を好きになったきかっけや理由が、まだ明らかになっていませんよね。
せかねこ:そうなんです。本当に何の設定も考えずに描き始めてしまったので、今3巻まで本が出ていますが、大分後付けの設定もあって(笑)。蓮見さんとほむら先生の出会いの話は、次に出る4巻の描き下ろしに入れられたらと、今山崎さんと話をしています。
――それは楽しみです! 蓮見さんがほむら先生のことが好きな事を校内のほとんどの人が知っているということは、何があったのかなと気になっていたので。
せかねこ:私自身は先生を好きになったことはないですが、学生の時、先生のことが好きな友達がいたんです。やっぱり内緒にしていても「先生のことが好き」っていう気持ちはその子の態度を見ていたら分かるし、周りにはバレバレだから広まっていっちゃうんですよね。蓮見さんも自分の気持ちを隠さず割と態度に出しているし、先生を好きでいることを悪いことだと思っていないので。出会いのエピソードはこれからじっくり考えます。
――ほむら先生の担当教科が「生物」っていうところがまたツボなんですよね。たとえその下に着ている服がダサくても、白衣姿だと3割増しに見えますし(笑)。
せかねこ:ですよね(笑)。とりあえず白衣を着せたかったんです。あと、最初はもう少しサイコパスな感じを出したくて「ちょっと変わっているというダメな大人」という設定と、白衣を着せたいという理由で生物の先生にしたんですが、私は高校時代の成績が良くなかったので、生物の授業がどんな授業だったか全く覚えていないんですよ。なので、ほむら先生の授業風景のコマを描けないという弊害が今出ています。
読者の深読みに「なるほど」
――二人のほのぼのとした日常会話の中に、核心を突くようなドキッとするセリフもあるのですが、特に意識したことはありますか?
せかねこ:ここでオチをつけようとか、読者の人に萌えてもらおうということはあまり考えていないんです。こちらが全く意図せずに描いたコマで「ここってこういうことだよね」と読者の人が感想を言ってくれることもあって「あ、そうなんだ」と自分で書きながら思うこともあります。
例えば、2巻に収録している「ほむら先生と人生」という回は、蓮見さんがほむら先生に「結婚しないの?」と聞くやり取りの話なんですが、その中で「私はもうそのくらい好きな人いるもん」「誰か知りたい?」と聞いた時に、耳をふさぐほむら先生のコマがあるんです。私としては、ほむら先生は「面倒くさいことは聞きたくない」というつもりで描いたんですが「今は知りたくない」というセリフに対して「今、ということは卒業したら知りたいってことなの?」といったリプライがすごくきて「あ、そうなるのね~!」と思いました。
山崎:自分の気持ちを素直に表している蓮見さんに対して、実はほむら先生の本心があまり描かれていない部分が、逆に読者の想像を掻き立てるポイントだと思います。
――皆さん、深読みしますね(笑)。
せかねこ:こちらとしては、あまり深い意味で書いたつもりはなかったんです。他にも、ほむら先生のセリフを深読みする方が結構多いので、そういう解釈にびっくりしつつも「なるほど」と思って見ていますし、今はSNSの漫画の時代だからこそ、こういった意見が聞けるんだなと思います。
――「キュン死」する人が続出した伝説の「文化祭」回ですが、ほむら先生が蓮見さんに言った「あのセリフ」について、何か裏話のようなものがあれば教えてください。
せかねこ:元々は1巻で終わる体で描いていたので、もうあの回でくっつけちゃおうかなという案もあったんですよ。あそこでほむら先生に「俺も好きだよ」と言わせても良かったんですけど、不器用ながらも蓮見さんを生徒として想ったとき、教師としての自分がギリギリのラインで答えられる返事として出てきたのがあのセリフだったんです。
――いよいよ蓮見さんも高校3年生になり、卒業にむかっていきますが、今言える範囲で今後の展開や見どころを教えてください。
山崎:単行本1巻では1年生の1年間、2巻では2年生の体育祭、3巻では2年生の文化祭と修学旅行……と、少しずつですが確実に時間が進行しています。次の4巻ではいよいよ高校生活最後の1年が始まる予定なので、ほむら先生と蓮見さんの関係性がどう変化していくのか、2人に残された時間を意識しながら読んでいただくとより一層楽しめると思います。
せかねこ:実はまだ終わり方を決めていないんです。個人的には、誰も報われないような終わり方をする物語が好きで、「何この終わり方!」みたいなのが好きなんですよ。でも、読者の方々は「蓮見さんとほむら先生にはくっついてほしい」とか「結婚式はいつですか?」といった「ラストはくっつく」体で感想をくれるんですよね。みなさんの希望に応えたい自分と、くっつかないで終わった方が青春の1ページとしてキレイな終わり方ができるんじゃないかと思う自分の葛藤があり、今悩んでいる状況です。なので、今言えるとしたら「必ずしもくっつくとは思わないでください」ということでしょうか。二人がどうなるかは、まだ私にも分からないです。