ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー「フライデー・ブラック」
アメリカで昨年ベストセラーとなったディストピア小説。著者はガーナ移民の両親のもとに生まれ、名門大の大学院創作科で修士号を取得した28歳の黒人青年です。12本の短編のひとつ、「フィンケルスティーン5」は、5人の黒人の少年少女が白人男性にチェーンソーで次々切断され、それでも男性は「自衛の範囲内」として無罪になるという物語。黒人の高校生を射殺したヒスパニック系の自警団男性が無罪になったという、フロリダ州で実際にあった事件を下敷きにしています。
「『フィンケルスティーン5』には“『腹が立ったら微笑む。叫びたい時には囁く』これがブラックネス(黒人らしさ)の基本だ”とありますが、現実にそうです。黒人はそうしないと社会では受け入れられない、最悪の場合は射殺されかねない」(訳者・押野素子さん)
残酷な黒人差別がねじ曲がった近未来世界。「ディストピア小説」というよりむしろ、現在進行形の恐怖が迫ってくる一冊です。
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ミシェル・オバマ「マイ・ストーリー」
前アメリカ大統領夫人の生まれ育ちは、シカゴのサウス・サイド。白人が郊外に脱出した1960年代以降、貧しい黒人が取り残された労働者の居住地域です。聡明で、かつ親しみやすいミシェル・オバマが国民から圧倒的な支持を得ていたのは、貧困や差別を知っているがゆえの共感力。そんな彼女のホワイトハウスでの8年間を記した回顧録です。
山下壮起「ヒップホップ・レザレクション」
社会からあぶれた人たちの容赦ない現実を、時に汚い言葉で詳らかに歌う「ギャングスタラップ」。著者は現役の牧師で、かつギャングスタラップをこよなく愛する生粋の“ヘッズ”でもあります。「牧師がギャングスタラップを聴いていいのか?」という問いに向き合った本書には、アトランタの大学でアフリカ系アメリカ人の歴史や文化を研究していた山下さんが肌で感じた日常的な警察からの嫌がらせ、貧困、ドラッグ、銃、自殺などについて、つぶさにつづられています。
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ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン「MARCH」
主人公はアラバマの農家に生まれ、鶏たちに聖書を説く心優しい少年ジョン・ルイス。彼はやがて黒人たちの苦境を知り、ただ人間として生きる権利を求めて若き活動家になります。殴られ続け、投獄され続けてもなぜ、抗議をやめないのか――。差別と暴力の渦巻く1950~60年代のアメリカ南部へ、読者をあっという間に誘い込む一冊です。
檀廬影「僕という容れ物」
ガーナ人の父親と日本人の母親を持つラッパー。幼少期から差別に苦しみ、喧嘩に明け暮れ、酒に溺れ、精神は破綻。その苦しみを、小説として書き上げました。
僕が今思うのは『より良い人生を生きたい』という、ただそれだけ。自分だけでなく、すべての人に良い人生を送ってもらいたい。だから自分の地獄のような経験と、そこで感じたことを晒しています。差別をする人間に対していろいろ思うことはあるけど、それは怒りというよりは気の毒だなって感じ。『あなたもより良い人生を見つけてください』って祈るような感覚ですね。※インタビューより抜粋
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上杉忍「ハリエット・タブマン」、キャサリン・クリントン「自由への道」
新たな20ドル紙幣の肖像画に選ばれ(現在は延期が決定)、話題となったハリエット・タブマンを知る2冊。奴隷出身で、南北戦争前に南部の奴隷州の黒人を救った女性として神話のごとく語られる一方、私有財産である奴隷を盗む「犯罪者」とされた事実も描かれています。
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ティファニー・ハディッシュ「すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説」
黒人女性版「セックス・アンド・ザ・シティ」「ハングオーバー」とも言われ、全米で大ヒットを記録したコメディ映画「ガールズ・トリップ」(2017年公開)。同作への出演をきかっけに、一躍大人気となった黒人コメディエンヌのティファニー・ハディッシュの自伝です。天衣無縫でハチャメチャに面白いティファニーですが、成功をつかみ取るまでは貧困や虐待、パートナーからのDVなど苦難の連続・・・・・・。「アナ雪の『Let it go(ありのままの自分でいる)』だけじゃ足りない。自分の人生をよりよく生きるためには、殻を破ってその一歩先を目指さなきゃ」というメッセージに勇気がもらえます。
>「すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説」翻訳者・大島さやさんが作品を徹底解説
ティファニー・ハディッシュのインスタグラムより