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「良い本にはフロウとリリシズムがある」 Riverside Reading Clubがヒップホップ好きにオススメしたい6冊

文:宮崎敬太、写真:有村蓮

好きな音楽やカルチャーを友達と共有したいだけ

――Riverside Reading Clubとはどんな集団なんですか?

ikm:単純に読書が好きで、周りにもそういう人たちが結構いたんです。たまに会った時に最近読んだ本の感想を話したりするのが楽しくて。そのノリで作りました。名前の由来は俺が川沿いに住んでるから。名前があるとロゴが欲しくなって、ロゴが出来たらグッズを作りたくなる。それを友達にあげてたら、結構反応してくれる人たちがいて。

Lil Mercy:でも最初はほとんど活動実態がなかったよね。ikmくんはお酒飲まないし、飲みに行こうって誘うことはないですし(笑)、クラブやライブハウスで会った時に本の話で盛り上がるのと、DMでいきなり本の話を送り付けあうみたいな(笑)。当時はRRCと言ってるだけっていうか(笑)。でもこの連載(ラッパーたちの読書メソッド)で仙人掌がRRCの名前を出してから一気に形になりはじめた。自分たちで定義づけようとしたっていうイメージ。

CENJU:僕はその過程を側で見てました。実は僕も川沿いに住んでて。むしろ川が近くにないと安心できない(笑)。それで本も好きだからikmくんに「入れて」って。

ikm:そんなふうに言ってくれたのはCENJUくんだけだよ(笑)。でも俺らはみんなで集まって読書会をしたり、RRCとして場を設けて何かする、みたいなことはしないと思う。好きな音楽やカルチャーを友達と共有したいだけ。でも最近は共感してくれる人が多くなったので、RRCのグッズを売ったり、インスタ(@riversidereadingclub)も作りました。あと、東京・雑司が谷の鬼子母神通りでやってるイベント「みちくさ市」のフリーマーケットとかに古本を出品したりして、そこで少しだけグッズも売ったりしてます。

>いろんな本が家に積まれてることが大事 Lil Mercyインタビュー

「ブラック・デトロイト」/ドナルド・ゴインズ

CENJU:じゃあまずは僕から。ikmくんがプレゼントしてくれた『ブラック・デトロイト』です。実は僕、本の好き嫌いが激しくて。興味が持てないと全然読み進められない。ひどい時は3ページで挫折する。だけどこの本はピンプが主人公で。ピンプは日本で言う所の女衒、ポン引き。ヒップホップやR&Bでは本当によくテーマになる題材です。にも関わらず、日本ではその実態があまり知られてないので、ものすごく興味深く読めました。

ikm:海外にはピンプに関する本が結構ある。最も有名なのが『ピンプ――アイスバーグ・スリムのストリート売春稼業』(アイスバーグ・スリム/浅尾敦則<訳>)。公民権運動が盛んな1960年代に出たクラシックですね。本当にいろんなラッパーに影響を与えてるけど、個人的には『ブラック・デトロイト』のほうが好きだな。

CENJU:この本の舞台は60年代のデトロイト。著者の半自伝的な小説です。主人公のホーサンは売春婦の息子。売春婦はスラングでホー(Ho/Hoe)と言われてる。その息子(サン)だからホーサン。このエピソードひとつとってもどんな環境か想像が膨らみますよね。しかもホーサンは14歳くらいでいっぱしのピンプになるんですよ。14歳ですよ。あと当時イケてた洋服の合わせ方が克明に描かれてる。

ikm:ちなみにこの本はマーシーくんのPV「PUSHER MAN」にも出てきます(笑)。

CENJU:ikmくんもマーシーくんも僕の好みを知ってるから、いつも僕が好きそうな本をピンポイントで回してくれるんです。海外文学は翻訳者によって難度が変わるけど、これはかなり読みやすかったな。僕の好きな言葉で訳されてる感じがした。

ikm:特に黒人文学に顕著なんですけど、スラングをどこまで訳すかという問題があって。一般的には直訳が多いと思う。でも俺やマーシーくんはむしろ翻訳っぽい文章が好きなんですよ。

Lil Mercy:日本人作家の文章を読むと、読みやすすぎてびっくりしませんか(笑)。それでハマって同じ作家の本続けて読んだりしますね。

ikm:あと日本の小説は会話が多いからね。会話って読書をドライブさせるんですよ。でも海外文学は会話にカギカッコを付けず地の文章で書くことがあるから、慣れない人はちょっと読みづらいかもね。だから自分が読みやすい文体の翻訳家を見つけるのも重要だと思う。

CENJU:でも、この『ブラック・デトロイト』はすでに絶版なんだよね。

Lil Mercy:えっ、そうなの? 古本屋で探せばたぶん見つかると思ってた。

ikm:最近RRCとして選書企画に呼んでもらえることがあるけど、俺らが紹介するのは絶版が多い(笑)。別に意識して絶版を選んでるわけじゃなくて、俺らが好きな本はいわゆるベストセラーではないからほとんど重版がかからない。でも古本屋さんにはちょこちょこあります。俺も『ブラック・デトロイト』は2〜3冊古本屋で買ってるから。

Lil Mercy:うん。今、家にあるのBOOK OFFの100円コーナーで発見したし。

J.COLUMBUS「PUSHER MAN」

「ニューヨーク145番通り」/ウォルター・ディーンマイヤーズ

Lil Mercy:ちなみに、自分が次に紹介する『ニューヨーク145番通り』も近所の古本屋というか、リサイクルショップの本のコーナーで発見しました。この本も絶版だけど、古本屋さんには普通に売ってるはず。新刊の本ももちろん買いに行きます。でも古本屋さんにも面白い本はたくさんあって。この本は作家名も何も知らなかったけど、タイトルに惹かれて買ってみました。有名な本だと思いますけどね。

CENJU:ニューヨークの145番通りってハーレム地区だよね。

Lil Mercy:そうそう。文字通り145番通りを舞台にした短編集で、人の死を予知できる「アンジェラの目」とか、生きてる時に葬式をした「ビッグ・ジョーの葬式」みたいな不思議な話が多かったりして興味深い。それぞれストーリー的に繋がってないけど、同じ登場人物が何回か出てきたりもして同じ時間と場所なんですよね。この本はとにかく読みやすい。たぶん1日で読めると思う。

ikm:読みやすいのは、翻訳が金原瑞人さんだからというのもあると思う。金原さんの翻訳はめちゃくちゃ良い。俺は金原さんの仕事をすごく信頼してて、買うか悩んだ時の基準にしてます。ちなみに、作家の金原ひとみさんのお父さんです。翻訳家として本当にいろんな本を手がけていて、児童文学や中高生向けに書かれたヤングアダルト文学もたくさん翻訳してる。この本も背表紙にY.A.Booksって書いてあるから、たぶんヤングアダルト文学なんだと思う。だから読みやすいっていうのもあるんじゃないかな?

Lil Mercy:なるほどね。街の描写とかめちゃくちゃイメージしやすかった。

CENJU:145番通りは本当に黒人ばっかりのところでしょ? キャムロンとかディプロマッツもあの辺が地元だよね。

Lil Mercy:そうそう。でもこの本には、いわゆるアフリカ系アメリカ人だけじゃなくて、ヒスパニックやカリブ系の人もたくさん出てくる。145番通りの雰囲気がわかるというか。実際ハーレム何回か歩いててもそれは感じたな。

ikm:向こうの小説ってとにかく街の描写が細かいよね。「どこそこの角を曲がったデリで俺らはいつも買い物してるから」みたいな。架空の街じゃなくて地元のことを書く。そこが日本と違うとこかも。

Lil Mercy:あとこの本には学校の話も出てくるんです。ハーレムの子供たちが学校の中でどんなことしてるかなんて、普通じゃなかなかわからないから、そういう面でも面白かったですね。

ikm:自分が好きなアーティストの地元の小説を読むのは本当におすすめかも。向こうのアーティストはリリックで地元のめちゃくちゃ細かい場所の話をしますよね。街について書かれた小説を読んでると、たまにリリックの場所が出てくることがあって。そうすると脳内の解像度がグッと上がる気がする。しかも好きなアーティストの曲が流れるシーンもあったり。かなりブチ上がったのはワシントンD.Cが舞台の小説で「地元の英雄・フュガージ(フガジ)が流れていた」という一文を読んだ時。スケボーしてる少年がラジカセで流してたんですよ。ちなみに俺はそこまでフガジが好きなわけじゃなかったけど、テンション上がってCD買っちゃいましたね。しかも一応出版された年を調べて同じ時期のアルバムを(笑)。

Lil Mercy:そうそう。今だったらサブスクでいろいろ聴けるしね。そういう意味でも『ニューヨーク145番通り』はハーレム出身のラッパーが好きな人は楽しめると思います。本当に読みやすいから入門編としてもちょうど良い。このあと何読んだらって聞かれても答えられないと思うけど(笑)。

「フライデー・ブラック」/ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー

ikm:この本は読みきってないんですけど、すでにRRCクラシックに確定しているので持ってきました。

CENJU:これ出たばっかりの本だよね?

ikm:うん。2月とか。構成作家の古川耕さんとRRCの別のメンバーが同じ日に薦めてくれたので速攻買いました。この本は冒頭からいきなりケンドリック・ラマーの言葉が引用されていて。最初の短編「フィンケルスティーン5」は、ブラック・ライブズ・マター運動の発端になったトレイボンマーティン事件がベースになってるんです。この小説では無実の黒人少年達がチェーンソーで首を切られる事件が起こるんだけど、犯人は無罪になってしまう。ちなみに、実際の事件は射殺です。それに対して黒人たちは何を考え、どう対応していくのか、ということが書かれています。興味深いなと思ったのはこの短編に出てくる「ブラックネス」という概念。簡単に言うと「黒人らしさ」ということ。黒人らしさ全開が10だとすると、面接の電話では1.5に抑える。白人に迎合してでも仕事が欲しいから。でも殺人事件が起きた時、哀悼を捧げるために彼は7.6まで「ブラックネス」を上げる。さらにスナップバッグを逆さに被ると8になる、みたいな(笑)。

Lil Mercy:その辺のディティールの表現はすごく理解を助けてくれるよね。

ikm:これを読んでいて、リチャード・ライトの『ブラック・ボーイ――ある幼少期の記録』という小説を思い出したんです。『ブラック・ボーイ』は1908年生まれの作家が書いたアメリカ南部のミシシッピで過ごす少年の話。100年近く前の文学なんです。にも関わらず「ブラックネス」に関してほとんど同じような記述があって。結局、今も昔も全然変わってないんだなって、かなりショックを受けました。

>米国の黒人青年による短編集「フライデー・ブラック」訳者・押野素子さんインタビュー

「ローン・レンジャーとトント、天国で殴り合う」/シャーマン・アレクシー

CENJU:前にマーシーくんからアメリカのインディアン居留地・リザベーションを舞台にした『リザベーション・ブルース』という長編小説が回ってきたんですよ。ロバート・ジョンソンという実在のブルースマンが使っていたギターに実は呪いがかかっていて、それを偶然手に入れたリザベーションの少年がバンドを始めるっていう。僕が2冊目に紹介する『ローン・レンジャーとトント、天国で殴り合う』はその著者が『リザベーション・ブルース』よりも前に書いてた短編集です。『リザベーション・ブルース』と同じ登場人物も出てきます。

ikm:日本人からするとインディアンってスピリチュアルなイメージがありますよね? でもこの本を読む限り、実際は全然違う。みんな、めちゃくちゃアメリカナイズされてる(笑)。というか、アメリカ的な生活に憧れを持ってる、という感じかな。でもインディアンはすごく差別されてるから、結局リザベーションから出られない。そのジレンマがこの短編集には結構出てますね。

Lil Mercy:この本を読むまでインディアンのことをあまり理解できていなかったと思います。インディアンはもともとアメリカの先住民族だけど、後から来た白人との戦争になって、内部分裂した結果、負けて最終的に現在のリザベーションを与えられました。しかも戦争の過程でとてつもなく虐殺されてて。インディアンに関しては、アメリカ的に本当に触れづらい歴史なんだと思う。

ikm:興味深いのは、リザベーションの若者たちはどっかでスピリチュアルな感覚を信じてるという部分。ファッションやカルチャーを取り入れても、リザベーションから出られないからそうなってしまう。

Lil Mercy:出られないから、ってとこがキモだよね。読んでて思ったのは、リザベーションってものすごく閉鎖的で能天気な空間に感じてしまう部分もある。

ikm:そこも結局さ、外に出ていけないから能天気にならざるを得ないんじゃない? 

Lil Mercy:なるほどね。ビールを飲み続けるしかないわけか。しかもそのビールもアメリカ政府から支給されたものなんだよね。家も。リザベーションを出たらそういう保護は受けられない。だから出られない。この本で描かれてるリザベーションは、本当に落伍者の群れって感じだった。その描き方の奥があるっていう意味で。

CENJU:あと、この短編ってタイトルが最高じゃない? 「スモーク・シグナルズ」って映画の原作になった「アリゾナ州フェニックスってのは」も良いし、ジミヘンのやつもヤバいと思った。

ikm:「おれはウッドストックでジミ・ ヘンドリックスが“星条旗”を演奏するのを見た、たったひとりのインディアンなんだ」でしょ(笑)。これも金原さんの訳なんですよ。こういうニュアンスも最高だと思っていて。あ、あとインディアンものだと、映画「フィールド・オブ・ドリームス」の原作を書いたW.P.キンセラの本も面白い。あの人は野球とインディアンのことしか書かない(笑)。カナダのインディアンの女の子が白人に暴行されて、不良たちが仕返しに行く話もあったり。キンセラのインディアンものも、スピリチュアルなエピソードはほぼ出てこないですね。

CJ&JC BLUE ROSE prod. STUTS

「アメリカ短編小説興亡史」/青山南

Lil Mercy:この本はタイトルのままなんですけど、アメリカの短編小説の歴史や構造などについて書かれたものです。自分はこの本の「いよいよ死ぬぞっていうとき、人間はじぶんにむかって短い話をするものさ――長編はお呼びでないの」というパンチラインが大好きなんですよ。これがこの本の内容を最も端的に表現してる。さっきから俺らが紹介しているのは、実はほとんど短編小説。アメリカでは毎年コンスタントに良い短編小説が出てくると思うんですけど、この本を読むとその理由がわかる。そもそも日本とは、短編の扱いがかなり違う。

ikm:わかる。まず書き方が全然違う。日本の短編は起承転結があって、最後にうまいこと言って落とす、みたいな感じが多い気がするけど、アメリカの文学はその日、突然起こったことを書いたような作品が多い。さっき紹介した『フライデー・ブラック』に「母の言葉」という短編があるんですよ。それは3ページしかない。だけど、ものすごく素晴らしい。誰かの人生のある瞬間にスッと入り込んだ感覚がした。友達の話を聞いてる感じにも近いというか。

Lil Mercy:そうだね。『アメリカ短編小説興亡史』を読むとアメリカ文学の短編がもっと気軽に読めるようになると思う。構える必要もないというか。作家やライターが原稿料を稼ぐために書いてたり、「ニューヨーカー」誌に載せてもらうために書いてたり。つまり名前を上げるための手段でもあったりする。アメリカでは短編を書くためのワークショップがあるっていう話も出てきます。もともとアメリカ文学の短編が好きな人にとっては舞台裏を知ることができるし、それ以外の人も読み物として普通に楽しめるはず。この本は一回友達にプレゼントしたんですが、やっぱり手元に置いておきたくて買い直しました。ただこの注釈に出てくる、短編集は未訳のものが多すぎるんですけどね(笑)。

CENJU:俺はそこまでたくさん読んでるわけじゃないけど、アメリカの短編はちょっとラップっぽいね。

ikm:間違いない。自分のストーリーを1曲の中に落とし込む。俺はマーシーくんのアルバム「WAVES, SANDS, & THE METROPOLIS」は短編集だと思って聴いてた。

Lil Mercy:確かに、1曲ごとに場所というかシュチュエーションは変えて書いてますね。作家ごとに趣向や観点が違うのもラップぽいかもね。あとこの本はアメリカ文化の観点から短編を紹介してるから余計に読みやすいと思う。

「CONFUSED!」/サヌキナオヤ(画)、福富優樹(原作)

ikm:Homecomingsというバンドの福富優樹さんと、イラストレーターのサヌキナオヤさんが作ったグラフィックノベルの短編集ですね。この作品を知ったきっかけは、別媒体でサヌキさん、マーシーくん、僕の3人で鼎談が企画されたから。実は俺、マンガを読むのが苦手で。文章に加えて画も見なきゃいけないし。だからこの作品のことをまったく知らなかったんだけど、読んでみたら本当にヤバくて。俺らが短編に求めるものがまさに入ってると思った。もしも『CONFUSED!』が好きなら、きっと俺たちが好きな本も気に入ってもらえるんじゃないかと思います。

Lil Mercy:マンガが好きな人は多いもんね。俺もマンガよく読んでますね。

ikm:うん。この短編集はグリーンバーグという架空の街を舞台にした話で。何個か短編があって、それぞれの物語が繋がったり、繋がらなかったりするんですね。そして最終的にグリーンバーグという街が見えてくるという構造になっています。せっかくなので今日はこのマンガが好きな人が読んだら最高な2冊も持ってきました。それが『シカゴ育ち』(スチュアート・ダイベック<著>/柴田元幸<訳>)と、『ワインズバーグ、オハイオ』(シャーウッド・アンダーソン<著>/上岡伸雄<訳>)です。

Lil Mercy:ワインズバーグ、オハイオ』は鼎談の時、サヌキさんに教えてもらったんだよね。

ikm:そうそう。『ワインズバーグ、オハイオ』はオハイオ州にある架空の街・ワインズバーグを舞台にした短編集で。一応主人公的な登場人物がいて、そいつは新聞記者なんです。たぶん、これが著者なんだと思う。そしていろんな人と出会って、いろんな経験をして最終的に街を出る。作品では明示されてないけど、おそらく行き先はシカゴなんですよ。で『シカゴ育ち』は『CONFUSED!』の原作者である福富さんの愛読書で、RRCクラシックでもある。これも同じ構造で書かれている。時期は『シカゴ育ち』が一番古くて、次が『ワインズバーグ、オハイオ』。そして俺らの言葉で現代版にアップデートされたのが『CONFUSED!』。逆に『シカゴ育ち』や『ワインズバーグ、オハイオ』が好きな人には『CONFUSED!』をおすすめしたい。

Lil Mercy:自分は『シカゴ育ち』が特に好きで。柴田元幸さんの翻訳が好きなんです。買う時の基準にしてるかも。『シカゴ育ち』は珍しく新刊でアメリカ文学の棚からなんとなく買った気がする。

ikm:そういう意味でも最後に言っときたいのが、みんな本を読む時、ストーリーばかり追う傾向があるけど、読書ってそれだけじゃないから。俺の中で、ストーリーと同じくらい重要なのがフロウとリリシズム。内容がわからなくても、フロウとリリシズムで読ませる本はたくさんある。これって音楽にも言える。みんなリリックまでしっかり読みこんでない時点でも楽しめてる。それと同じことが本でできると思う。

Lil Mercy:海外の音楽を聴く時と感覚は一緒だよね。言葉の流れを楽しむ。

ikm:だから翻訳家が重要なんですよ。ただ意味を日本語に置き換えるんじゃなくて、原書のフロウやリリシズムをいかに日本語で表現するかっていう。音楽の流れで言うと、アルバムやEPで好きな曲だけを何度も聴くでしょ? 短編小説はそれができる。俺は好きな短編を何度も読み返すし。逆に買ったけど読まない話があったり。

CENJU:読書ってみんなが思ってる以上に自由だよね。

Lil Mercy:まさに。それぞれの人生体験によって頭の中に出てくるイメージは異なるから。この連載をチェックする人はヒップホップが好きだろうから、カルチャー的に関係あるところから気軽に読み始めるとはまると思います。