「なんか違うって感じじゃなかったですか?」
少し心配そうに聞かれた。自身の幼少期や家族をときにおかしくたまに切なくつづるエッセーで根強い読者を持つだけに、「初の長編小説」と聞くと、そう感じる人もいるのかもしれない。本人の言葉を借りれば「幸せでぼんやりした恋愛小説だろうと思ってたら、こんなこわいことが起こるなんて」と。
主人公は30代半ばのフリーカメラマン、シオ。大好きだけど私生活の見えない文雄、妻子持ちの点ちゃんや元恋人の角田も加わった恋模様……ではあるのだが、なんだかヘンなのだ。エッセーに通じるおかしみを随所に盛り込みつつ(本人は笑わせる気はなかったらしい)、やがてある種のサスペンスに。
描いたのは「まるっと自分がモデル」の「なんにも決められないできた女性」。東日本大震災ですら変われず、むしろ、ささいとも言える出来事で運命を狂わされる。
2015年に出産、母子で暮らす。子育てエッセーの依頼があり、出産を経て「景色が変わった」実感はあったがためらった。「思い出ならきれいに書けるけど、生々しすぎて、面白く書けると思えなかった」
これまでエッセーを書きながら「いい子ぶってるんじゃないか」と気になっていたという。「恋愛の失敗を書くとしたら、雨粒にもキラキラ加工が入って、もっときれいになる。いいところだと思う半面、物足りない部分があった」と振り返る。「かっこ悪いこと、どうにもうまくいかないことを整えずに作品にできるとしたら」と小説を選んだ。
最後の最後に主人公は決断する。「ボヤボヤしたところのすき間を埋めていくのが好き」なしまおさんの新境地は、レッテル貼りや決めつけをかわす面白さだ。(文・滝沢文那 写真は文芸春秋提供)=朝日新聞2020年7月4日掲載