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大谷亨さん「中国TikTok民俗学 スマホからはじまる珍神探訪」インタビュー 民間信仰から見る多様性

大谷亨さん

 結社を警戒する中国共産党が監視カメラを張り巡らそうと、半世紀前の文化大革命で仏像や寺などが壊された歴史があろうと、中国の神々はにぎやかに息づく。福建省のアモイ大学で日本語や日本文化を教えながら、庶民が信じる神様を研究している。

 「中国で三大メジャーな儒教、仏教、道教の教えにとらわれず、一般大衆が勝手に信じる、いわば『野良宗教』が対象です。数え切れないほどあります」。スマホと動画投稿アプリ中国版「TikTok」の情報を道標に旅し、神様を媒介役に中国社会の断面を浮き彫りにする。

 「TikTokには見たこともない珍神、奇怪な祭りや祈禱(きとう)、弔いや憑依(ひょうい)の動画が続々と投稿されている。土地の文化や習俗にあふれ、庶民が自らの手で編む民俗誌のようです」。逆立ちする張五郎、尾が九本の妖艶(ようえん)な狐(きつね)、大きな耳たぶで打ち出の小づちを持つ大黒天……。前著『中国の死神(しにがみ)』の主役、長い舌を出した無常は、今回も登場する。

 広い国土を縦横無尽に走る高速鉄道にひょいと飛び乗り、目的地近くまで迫る。バイクタクシーで田舎道を疾走する。雪のあぜ道を歩き、路地に潜む神様にも目をこらす。仏具展示会や露天商をあさり、華人ネットワークが根づく東南アジアにも飛んだ。

 旅した時期は、主にコロナ禍以降。日中関係の悪化で中国を訪ねる日本人は激減している。現地に暮らし、農村を歩き回り、人々との飾らないやりとりをつづる「珍神探訪記」は、中国の今を最前線で伝えるギリギリのルポルタージュであり、旅行記だ。カラフルな写真も時代を映す。

 母が北京出身で中国には子供のころから縁があった。神々にとりつかれたきっかけは、東北大学大学院在学中にアモイ大学歴史学科へ研究留学したこと。民間に生き続ける多様な信仰に驚き、魅せられた。「広い中国、神様も場所が変われば名前や役割も変わる。中国社会は一元的ではない。民間信仰から見える知られざる姿を地をはいつくばって調べて伝えたい」。今日もスマホを手に、新たな神様との出会いを探している。(文・吉岡桂子 写真・本人提供)=朝日新聞2026年2月7日掲載