1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 科学エッセイの先駆的著作 寺田寅彦「科学歳時記」など山田航さんが薦める新刊文庫3冊

科学エッセイの先駆的著作 寺田寅彦「科学歳時記」など山田航さんが薦める新刊文庫3冊

山田航が薦める文庫この新刊!

  1. 『科学歳時記』 寺田寅彦著 角川ソフィア文庫 924円
  2. 『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』 高野秀行著 新潮文庫 990円
  3. 『ことばの波止場』 和田誠著 中公文庫 726円

 (1)は夏目漱石門下の文人でもあった物理学者による、科学エッセイの先駆的著作。日常の中の季節感を情感たっぷりに描きながら、その季節感の背景にある自然科学について解説する。現代となっては常識に近い知識も少なくないが、文学を科学的に解析するというのはそれだけ斬新な仕事だったということか。日本人の感じる「涼しさ」とは日本の特産物なのではないかという仮説を立てて俳句を読み解いていく手付きは、やはり詩人として一級品の感覚。

 (2)は日本以外で食されている納豆を追い求めることで、アジアを問い直すノンフィクション。納豆は日本だけの食べ物ではなく、ミャンマーやネパールの一部などでも食されている。異なる点として、日本の納豆は稲藁(いなわら)で作るが、アジアの納豆は葉っぱで巻いて作る。そして深掘りしていくほどに、アジアで納豆を食する人々は「辺境」といえる土地に暮らすマイノリティである傾向に気付き、それは日本の納豆原産地と目される東北の内陸部も同様だった。納豆は日常食であるために、庶民の生活を色濃く描き出す。とにかく納豆が食べたくなる一冊だ。

 (3)は児童書専門書店で開かれた講演録をもとにした、言葉遊びのエッセイ。紹介されているのは折句、アナグラム、回文などスタンダードな言葉遊びが主。小学校の担任だったという児童文学者・柳内達雄のマザー・グースと『くまのプーさん』を用いたユニークな授業の話は、国語教育の観点からもきわめて興味深い。=朝日新聞2020年7月4日掲載