- 証言 沖縄スパイ戦史(三上智恵、集英社新書)
- ウサギと化学兵器(いのうえせつこ、花伝社)
- 鉄路の果てに(清水潔、マガジンハウス)
終戦記念日も今年で75回目。既に歴史になりつつある第2次世界大戦だが、新たに明らかになる真実もある。
『証言 沖縄スパイ戦史』は新書で750ページという厚さに度肝を抜かれる。民間人を巻き込んでの激戦となった沖縄戦末期には少年たちも作戦に動員された。「護郷隊」は陸軍中野学校出身の将校に組織されたゲリラ部隊だ。自宅の裏山で米軍と戦い多くの少年が死んだ。生き残った彼らの証言に加え、住民をスパイとして虐殺した日本兵たちの姿を暴く衝撃的な作品だ。
本書は2018年公開のドキュメンタリー映画がベースになっている。2人の女性監督が10年がかりで取材した大作で多くの賞を受賞した。
映画の公開後に集まった新たな証言を加えた本書は、淡々と真実を総括していく。近くに住む住民たち同士が、お互いにスパイとして疑い合うなどとした悲惨な歴史も描かれる。
映画では、強制疎開によってマラリアで死亡した人々がいたことも語られる。そのことについてはもう1人の監督、大矢英代が上梓(じょうし)した『沖縄「戦争マラリア」』(あけび書房)に詳しい。あわせて読んでほしい。
『ウサギと化学兵器』の著者は1939年生まれのフリーライター。彼女は女子挺身(ていしん)隊の取材中、戦争末期に自分が可愛がっていたウサギが消えたことを思い出す。戦時中の新聞に「毛皮は防寒着に、肉は食糧に」という記事を見つけたのだ。
実際は毒ガス研究の動物実験用だったのではないかと疑問を持った著者は証拠集めに国内を奔走し、話は生物兵器の研究をしていた登戸研究所や「七三一部隊」へとつながっていく。
終戦後、毒ガス弾は国内外にひそかに廃棄された。現在でも環境省のホームページには「国内における旧軍毒ガス弾等に関する取組について」という項目がある。
『鉄路の果てに』は、著者である清水潔の亡き父が遺(のこ)したメモの足跡をたどる紀行だ。著者の父親は昭和17年に召集、鉄道連隊に配属されて、中国で鉄道の敷設などに関わり、敗戦後はシベリアに抑留されていた。
朝鮮半島、旧満州、シベリアと、著者は友人作家の青木俊と旅をしていく。鉄道マニアらしく資料を読み込み、当時の状況を想像しつつ、現代と比較する。実は清水の祖父は日露戦争で勲章をもらった人物。ソ連との長い歴史も読みどころである。
この著者にしては珍しく感傷的な記述もある。身内の話である以上当然だろう。私たちが今生きているのは先の戦争と無縁ではない。その関係をいま一度検証すべき時なのだと確信した。=朝日新聞2020年7月22掲載