「不良」書評 悪くて滑稽で静かにかっこよく
ISBN: 9784087717174
発売⽇: 2020/06/05
サイズ: 20cm/154p
不良 [著]北野武
北野武監督の映画作品が好きで、「キッズ・リターン」を思い起こさせる装丁を見た瞬間に、手が伸びていた。
1960年代の下町に生きるヤンチャな少年たちが大人になっていく物語は、北野さん自身の体験がもとになっているという。
喧嘩(けんか)が強く、悪行を繰り返すキーちゃんに、主人公の高野をはじめ周りの少年たちは時々呆(あき)れつつも、その豪胆さや無鉄砲さに惹かれて行動を共にしてゆく。
両親から厳しく育てられたにもかかわらず、どんどん悪い世界へと足を踏み入れていく高野に、最後までヤキモキした。違う道を選べる機会も何度もあったが、なりゆきでヤクザになったり、命を懸けることになったり……。まさに、北野さんが刊行に寄せた「青春の無駄遣い」という言葉がしっくりときた。
高野の行動にやるせない思いを抱いてしまうのは、私自身にも青春の無駄遣いをした覚えがあるからだ。もちろん作中に出てくるような悪さではないが、勉強もしないで暇を持て余したり、行動しないわりにくよくよ悩んでいたりした。当然、振り返ったところで過去は変えられないけれど。
最後の乱闘場面は映画を観ているようだった。スピード感のある中にスローモーションの画が浮かび、伊藤咲子さんの歌が聴こえた。激しさの後に大きな喪失感とせつなさが残った。
血が飛び交うような争いや、自分の人生が大きく転落していく場面でも、主人公がそれを淡々と受け止め、どこか滑稽な他人事(ひとごと)のように描いているのが印象深かった。ここに北野さんらしさというか、映画作品やエッセイにも共通する、冷たく静かに燃える炎のようなかっこよさがある。
読後、「キッズ・リターン」の最後の台詞(せりふ)が浮かんだ。「まだ始まっちゃいねえよ」。私たちの人生がそうであってほしいように、高野にも同じことが言えるだろうか。哀しさと笑いと、そこはかとない美しさが漂う作品だ。
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きたの・たけし 1947年生まれ。お笑いタレント、司会者、映画監督、俳優、作家。著書に『純、文学』『首』など。