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持田冥介「僕たちにデスゲームが必要な理由」 少年少女の切実な叫び

持田冥介著『僕たちにデスゲームが必要な理由』(メディアワークス文庫・715円)

 夫婦生活が完全に破綻(はたん)した両親のもとで暮らす高校生・水森陽向(ひなた)は真夜中に不意に目覚め、何かに引き寄せられるように公園に向かう。そこでは毎晩、街の少年少女たちが集まって、異能を宿した思い思いの武器で殺し合っていた。

 持田冥介(めいすけ)『僕たちにデスゲームが必要な理由』は、冒頭から日本刀を持った少女が人の首をはね飛ばしたりする小説だ。ただし本作の戦いはタイトルにあるデスゲームもの――強制的に集められた参加者が異常なルールのもとで殺し合いをさせられる――とはだいぶ趣が違う。何せ死んでも即座に生き返るし、戦いも完全に自由参加。負けても一切ペナルティーがない。だから公園に集った10代は長すぎるモラトリアムの時間を埋めるかのように、自分のペースで好き好きに殺し合いをしている。

 デビッド・フィンチャーの手で映画化もされたチャック・パラニューク『ファイト・クラブ』(池田真紀子・訳、ハヤカワ文庫NV)は消費社会に囚(とら)われた男たちが、生の充足感を求め夜な夜な殴り合いをする物語だったが、本作はその異能バトル版と言えるかもしれない。ただし『ファイト・クラブ』よりもっとスローテンポで内省的だ。自分の思いをうまく言葉で表現できず、武器を握って殺し合うほかない少年少女たちの姿が丁寧に書かれる。抑制の利いた文体だからこそ、彼らの切実な叫びが行間から伝わってくる。戦いを通じ、みずからの抱える悩みを少しずつ言語化し、問題へと向き合っていく過程は、奇抜な設定とは裏腹に、実に真摯(しんし)でまっとうな青春文学のそれである。

 本書は著者・持田冥介のデビュー作だ。元々はライトノベル・レーベル「電撃文庫」の新人賞である第26回電撃小説大賞の応募作で、惜しくも受賞を逃したものの「隠し玉」として姉妹レーベル「メディアワークス文庫」から出版されるに至ったものだという。ライトノベルやその周辺の新人賞はこれまでもしばしば、既存のエンターテインメントの枠組みを用いつつ、若い読者の自意識と向き合おうとする、奇妙な青春小説を生み出してきた。その系譜に連なる本書は、隠し玉であると同時に電撃小説大賞ならではの直球だと言えるだろう。若い読み手にとって大切な一冊になってくれる小説だと思う。=朝日新聞2020年8月15日掲載