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阿久津隆「本の読める場所を求めて」 「読書の公共圏」めざし店を運営

  読書面の編集のため日々本と向き合う私に、『本の読める場所を求めて』というタイトルはササりすぎる。著者の阿久津隆さん(34)にとって読書とは「愉快に生きていくために必要な、代わりのきかない、単純に大好きな、趣味」。この本は、そんな阿久津さんが、読書を軽んじている街に少しだけ憤り、東京都内で本の読める店「fuzkue(フヅクエ)」を運営するに至った軌跡である。

 本なんてどこでも読める、と思いがち。でも、コーヒーチェーンではパソコンをたたく音が気になり、カフェではコーヒー1杯で長居することを気にかけ、図書館では猛烈に勉強する人たちに気おされ……。数々の失敗体験に基づき、読書と環境との関係を軽い筆致ながら深く論じていく。

 フヅクエで客に渡される超長文の「案内書きとメニュー」を見ると、本を読む行為を守るための詳細なルールと、研究を重ねてたどりついた料金設定にうなる。めざすのは、読書をする人同士が無言で敬意を表し合うような「読書の公共圏」だ。(吉川一樹)=朝日新聞2020年9月5日掲載