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尼神インター・誠子さん「B あなたのおかげで今の私があります」インタビュー 「ブス」と向き合って今、思うこと

文:根津香菜子、写真:斉藤順子

M 愛すべき人がいて」に乗っかって

――タイトルにも書いてある「B」はブスのことですが、誠子さんがブスを「B」と言うようになったのはいつ頃ですか?

 「B」はこの本のタイトルを考える時に思いついたんです。本作はエッセイなんですけど、「B」を俯瞰して小説風に描いているので、私と「B」という形にしたかったんです。改めて自分が「ブス」とちゃんと向き合うために客観視する部分も含めて「B」にしました。あとは、浜崎あゆみさんの『M 愛すべき人がいて』が大好きで読んでいたので、それにも乗っかれたら面白いかなと思ってこのタイトルをつけました。

――少女時代から芸人になってからのこと、恋愛や家族についてなど、誠子さんのこれまでがぎゅっと詰まった内容でしたが、本作をご自身で振り返ってみていかがでしたか?

 こんなに自分のことを振り返る作業が生まれて初めてだったので、すごくエネルギーを使ったけど、とてもやりがいがありました。私はポジティブなんですけど、改めて振り返ってみると自分からそうなったというよりは、家族や友人、同期のみんなが自分をポジティブにしてくれたと思っています。

 「B」のことも芸人の人たちが笑いに変えてくれたので、本当に周りの人に支えてもらった人生やったなと。まだ終わっていないんですけどね(笑)。自分についてのエッセイを書くというよりは、周りの人と向き合う作業やったなという感じがします。

――成長する過程の中で、自分が「B」だと気づいていき、決定打となったのが中2の席替えで男子から言われた一言でしたね。あの時の気持ちを振り返ってみていかがですか?

 思い返すまではその時のことも忘れていたんですけど、「何で自分は当たり前のように『ブス』という認識で生きてきたんやろう?」って振り返ってみたら、すごく鮮明に「あ、あの時この人にブスって言われたわ」ということを段々と思い出してきましてね。あの時のことがブスの原点というか、自覚することになったきっかけやったなと思います。でも、逆にあれがなかったら芸人になっていなかったと思うので、今となってはあの男の子に感謝やなと思います。

自分との対談でコンプレックスを俯瞰

――誠子さんと「B」の対談も面白かったです。どちらの気持ちも誠子さんが書いているんですよね。

 嬉しいー! 私も個人的に「B」との対談は超気に入っていて、書いているのがすごく楽しかったです。どっちも誠子なんですけど、書くことによって自分の気持ちも分かったし「B」の気持ちも分かって、自分でも発見や感動がありました。この方法は皆さんにもやってみてほしいかも。自分のコンプレックスを俯瞰して、自分と対談してみるって、結構いいかもしれないです。

――女性芸人同士で「B」について話すことはありますか?

 「B」について話すというよりは、意外と女芸人って、お互いを褒め合うんです。昨日もガンバレルーヤと一緒やったんですけど「今日肌ツヤいいよ」とか「最近かわいくなったな」とか(笑)。

 コントみたいなんですけど、私は「女芸人」っていう存在が大好きでホンマにかわいいと思っているんです。本当は女性として「かわいい」って言われたい気持ちもあるんですけど、それは一旦置いておいて、体を張って色んな芸をする姿がめっちゃかわいくて「女芸人って健気やな」と思います。それに、女芸人って「ブス」をポジティブに変換できるというか、「芸人」でいるという事にすごく救われているんじゃないかなと思います。

――芸人になって経験を積んでいくうちに、「B」というコンプレックスが自己否定から自己肯定へと変わっていったと書かれていますが、その実感はありますか?

 ありますね。私は芸人になってから毎日がすごく楽しいんです。ネタのこととか細かいことで悩んだことはありますが、容姿は別に変わっていないのに生きるのが楽しくなったし、自分に自信が持てたんですよ。自分が好きなことを見つけられたことで、すごく自信になったんですよね。よくバラエティー番組のディレクターさんに「カメラが回るとブスになるね」って言われるんです。「漫才中にブスの顔をする」とか「ブスを作るね」と言われたこともあって「私、プロのブスになれる」って思えて、すごく嬉しいです。

 私、トリックアートが好きなんですけど、角度によって貴婦人に見えたりおばあちゃんに見えたりするじゃないですか。私のことを「ブス」と言う人もいれば「かわいい」と言ってくれる人もいて、それが「トリックアートみたいで、おもろいな」って思うんです。いろんな顔に見えるってことは、いろんな自分になれる顔ってことですもんね。

「ブス」と言う人の気持ちって?

――第5章の「Bの意味」と題した回で、「『B』という言葉の奥に秘められた想いを探したい」と書かれていますが、誠子さんはそれがどんなものがあってほしいと思いますか?

 私は芸人なので「ブス」と言われることが悪口で言われているんじゃないと思っているんです。先輩芸人さんたちが「ブスや」といじってくるのは、それで私がみんなから笑ってもらおうという優しさなんですよね。だから「ブス」という言葉の意味だけじゃなく、それを言った人の気持ちまで考えられたら、反射的にイラっとしたり落ち込んだりすることがなくなるんじゃないかなと思います。あとは「それを言わせてしまった自分は何なんやろ」とか「それを言った人の心境ってどんなんやろ」とか、その言葉を言った人の気持ちと向き合うことで、いい関係を保っていける気がします。

――SNS上で自分の知らない人から悪意のある言葉をかけられた時は、どう受け止められますか。

 言葉にもよるんですけど「そういう意見もあるんや」と一意見として受け入れることと、「こういう意見があるってことは、こういうネタも書けるんじゃないか」って、何かのヒントや自分のエネルギーにしたいなって思います。私は「ブス」って言われたらおいしいなと思うので、それを自分の力やエネルギーのひとつにしますね。

 例えば、以前「テレビを観てたらいきなり誠子が出てきて、ブス過ぎて足つった」みたいなツイートがあったんですよ。それを翌日「イラっとする話」みたいなテーマの番組ですぐにネタとして話しました。それがウケて「やった!」と思いましたよ。それは私が芸人だからというのもあるんですが、芸人じゃない人でも、何か話のネタにして周りの人を笑顔に出来ることもあると思うので、ネガティブになるだけじゃもったいないと思います。

――負のものを自分でプラスのエネルギーに変えていくって、すごいことだなと思います。でも「いつもポジティブでいなきゃ」って思い続けるのは疲れるし、たまには「このヤロウ!」と思うこともありますよね。

 うんうん、ありますね。だから常にポジティブでいようとは思わなくていいし、感情に身をゆだねる時があってもいいと思います。ただ、それだけで終わったら悔しいし、周りの人を笑顔にしたいと思うんです。それこそ相方の渚は私と真逆で、イラっとしたことを全部表に出す人なんですよ。Twitter上でもケンカするし、遠くから勝手に写真を撮っている人を見つけたら「何してんねん! 消して」ってすぐに言うし。

 でも、それもすごく良いなって思うんですよね。彼女はそうやって吐き出すことをエネルギーにしているし、それをおもしろトークにできる私もいるし。吐き出すことでプラスにできるんやったらその方がいいし、ネガティブな精神状態の方が自分の仕事に活かせるんだったらネガティブでも全然いいと思うし。ネガティブでもポジティブでも、その先に自分にとってプラスになることや、いいエネルギーにできる形になることが一番やと思いますね。

嘘でもいいから「笑う」

――容姿に限らず、様々なコンプレックスに悩んでいる人へ、何か誠子さんからアドバイスがあれば教えてください。

 ポジティブの押し付けになったら嫌なんですけど、私は悲しい時にめっちゃ笑うようにしているんですよ。笑ったり変顔したりすると、自分で笑えてくるんです。悲しい時に悲しい顔をすると悲しいままで終わっちゃうので。笑ってみると本当に楽しくなるし、私が笑ったら周りの人たちも笑顔になる気がするので、嘘でもいいから「笑う」って大事やなと思います。

 もちろん辛い時は無理することないんですけど、私は笑うと結構心が晴れるんですよ。それに、私たちが舞台で漫才をやっている時、こっちが笑わせているのに、そのお客さんの笑顔でこっちが嬉しくなるというか、お客さんの笑顔で拍車がかかって調子も上がるので、笑顔の力って本当にすごいなと思うんです。なので、自分で一回笑ってみるか、それでもだめなら、一度「ルミネtheよしもと」に来てもらって(笑)。

――それは「舞台で笑わす自信があるぞ!」ということで(笑)。

 「あるぞ!」ということで。色んな女芸人が出ているので、こんな人たちも元気に笑っているんだっていう姿をね……ウフフフ(笑)。そういう姿が、誰かの、何かの励みになればいいなと思って私たちはお笑いをやっているので、見て笑ってほしいと思っています。

――本書のあとがきで「学生の頃から読書と本屋さんという空間が好き」と書かれていますが、誠子さんの読書ライフを教えてください。

 例えば、一日にルミネで3ステージあったら、空き時間の度に劇場近くの本屋さんに行っています。休みの日は本屋さん巡りをしますし、時間があったら本屋さんに行きますね。初めて買った本は、江國香織さんの『東京タワー』でした。お母さんから「お小遣いあげるから、これで本買ってきなさい」って言われてジャケ買いした作品で、その時は中1だったんですけど、読んだらバリバリの不倫モノで「大人―っ!」って思いましたね。この作品で「小説って自分の知らない、憧れの世界にいけるものなんや」って本の世界に入ることが楽しくなっちゃって、そこから妄想癖も出てきて今の妄想漫才にも繋がっていくので、本が妄想好きになったきっかけやと思います。

――特に恩田陸さんや森見登美彦さんの作品がお好きだそうですね。

 恩田さんの作品は現実と空想との塩梅がいいというか、リアリティのある非現実というか。その狭間をずっと描いている感じがたまらなくて。色々なことを俯瞰して見ている感じが大好きです。森見さんの京都を舞台にした腐れ大学生の話は、私が芸人として全く仕事がなく、とんでもない生活をしていた時と重なるんです。四畳半の狭い部屋で芸人同士夢を語り、漫才の話をしていたむさくるしい感じが、作中に描かれている大学生のダラダラした感じと重なる部分があって「あ~、分かる~」って思います。あとは森見さんの言葉のセンスが面白くて、ゲラゲラ笑っちゃうんです。