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「浅田家!」中野量太監督インタビュー お互いを思い合うことから、本当のドラマが生まれる

文:永井美帆、写真:斉藤順子

「父ちゃんと母ちゃんが喜ぶから」

――今作は『浅田家』と『アルバムのチカラ』という写真家・浅田政志さんの写真集が原案となっています。写真集をもとに、映画を作ることになったのはなぜですか?

 映画プロデューサーの小川真司さんがずっと温めていた企画で、「浅田さんみたいな監督」「浅田さんと相性の良さそうな監督」ということで、僕にオファーが来ました。「この家族を題材にしたいんです」と写真集『浅田家』を差し出された瞬間、「この家族には間違いなくユニークなドラマがあるはずだ!」と確信しました。だって、家族全員で消防士やバンドマンのコスプレをして、写真を撮るなんて、絶対に何かあるはずじゃないですか。浅田家という家族が気になって仕方なくなりました。

 実際、三重県に暮らす浅田家に何度か会いに行きました。コスプレ写真から、「きっと奇抜な家族なんだろうな」って想像していたんです。しかも、浅田さんが幼い頃からお父さんが主夫として家庭を守り、お母さんが外で働いていたというので、当時の家族観からしたら一般的ではありませんよね。でも、いざ会ってみると、いたって普通。どこにでもいる温かい家族でした。

 特に印象的だったのがお兄さんの言葉で、お兄さんは浅田さんが「こんな写真を撮りたい」と言い出す度に、いろんな所に交渉して場所を用意するなど、さんざん振り回されてきたわけですよ。「こんなに大変な思いをして、なんで撮るんですか?」と尋ねたら、お兄さんは「だって、父ちゃんと母ちゃんが喜ぶから」って。シンプルだけど、愛のある答えですよね。お互いがお互いを思い合う、どこにでもある家族の関係。この映画で浅田家をどう描けばいいか、お兄さんの言葉から教わった気がします。

©2020「浅田家!」製作委員会

――映画後半では、浅田さんが東日本大震災の被災地で参加した「写真洗浄」という活動について、描いています。

 震災以降、一人のクリエーターとして、「いつか震災をテーマにした作品を撮らなければ」という思いは持っていました。でも、「震災をエンターテインメントとして描いていいのだろうか」という葛藤があり、ずっと踏み出せずにいたんです。そうした中でこの作品に関わることになり、浅田さんが写真洗浄の様子を2年間にわたって記録した写真集『アルバムのチカラ』と出会いました。

 津波で泥まみれになった写真を1枚1枚きれいに洗って、持ち主のもとに返却する。震災から10年近く経った今も写真を返却する活動は続けられていますが、こうした活動が行われていること自体、知りませんでした。僕は世の中に知られていないことを伝えるのも映画の役割だと考えていて、「これは絶対に映画にしなくては」という強い思いが生まれました。

©2020「浅田家!」製作委員会

二宮さんのファンにも読んでもらいたい

――2冊の写真集をもとに、どのように物語を作り上げていったのですか?

 オリジナルストーリーではあるんですが、浅田家を描く題材は豊富でした。浅田政志という1人の実在する写真家の半生に、被災地での写真洗浄という実話があって、さらに東北で取材をする中で、胸の奥に悲しみを抱えながらも、前向きに生きるたくさんの被災者と出会いました。だから、ゼロから物語を作っていったのではなく、整理をしていく感じでしたね。最初に書いたプロットなんて、もっと登場人物が多くて、めちゃくちゃ長かったんですよ。それを2時間という限られた映画の枠で、最大限伝わるように取捨選択していく作業は苦労しました。

 映画の製作と並行して、自然と小説化の話が持ち上がり、僕としては別の作家さんに書いてもらうよりも自分で書きたいなと。映画では仕方なく削ることになったエピソードがたくさんあったので、そこを書き足しつつ、映画で浅田政志を演じた二宮和也さんのファンの方たちにも読んでもらえたら、という期待も込めて書きました(笑)。

――これまで家族をテーマにした作品を手がけてきた監督ですが、コロナ禍をきっかけに、作品への向き合い方は変化しましたか?

 東日本大震災の時も、僕らクリエーターは相当なショックを受けて、「この圧倒的な現実に、どうやったら立ち向かうことが出来るだろう」とずっと考えてきました。震災から10年近く経ち、ようやくこの映画で震災について描くことが出来たけど、今回のコロナに関しても同じくらいのショックを受けていて。まだまだ結論は出ませんが、新しいことを始めるきっかけにはなっていますね。

 最近、初めて半分リモートで短編映画を撮ったんですよ。でも、やっぱりリモートでドラマを撮るのは苦しい。僕らにとって何がドラマかっていうと、人と人が触れ合うこと。人間同士が出会って、相手のことを思う。そこからしか本当のドラマは生まれないんです。いくらインターネットでつながっていても、本当の心はつながらない。このコロナ禍で、人と人が触れ合うことの大切さを痛感しました。

 映画の見られ方も変わってきました。極端な話ですが、人間は映画がなくても生きていけます。でも、映画があると、より豊かに生きられるんです。今のような状況では自宅のパソコンで映画を楽しむのもいいと思います。それでも、映画館で映画を見る価値というのは不変だとも思います。大きなスクリーンで、何人もの観客と時間を共有しながら見る面白さは、映画館でしか味わえません。はやくそういった日常が戻ってくれることを願っています。